古い長屋は学生たちにとって“生きた教材”だ。
古い長屋は学生たちにとって“生きた教材”だ。

増え続ける日本の空き家。解体され、更地になり、まもなく駐車場や新築の家に姿を変える光景もおなじみだ。だが、ただやみくもに老朽化した家を取り壊せばよいのだろうか。

大阪市立大学の生活科学研究科では、2007年から小池志保子准教授らと学生たちが長屋の再生プロジェクトに取り組んでいる。大阪市内にある空き家状態の長屋をリノベーションし、魅力的な賃貸住居として蘇らせているのだ。

■「解体」ではなく「再生」。昔の素材を活かす

若い人にも住まいとして選ばれている「豊崎長屋」。撮影/絹巻豊
若い人にも住まいとして選ばれている「豊崎長屋」。

「ビニールクロスなどが使われている今の住居は、呼吸をしない家でもあります。しかし古い長屋には、竹や木、土壁など質感のある素材が使われているので、それをそのまま活かして改修します」と小池氏。主に戦前に建てられた長屋を改修している。

木が多用され、庭がすぐ目の前にあり、さらに耐震フレームなどで強度を増した快適な新・長屋は若い人にも好まれているという。大阪市ハウジングデザイン賞を受賞した「豊崎長屋(大阪市北区)」は居住目的の他、習い事の教室などにも利用されている。

静かな街にたたずむ「山之内元町長屋」。撮影/多田ユウコ
静かな街にたたずむ「山之内元町長屋」。

水回りのデザインなどにも特徴を持たせている。撮影/多田ユウコ
水回りのデザインなどにも特徴を持たせている。

 プロジェクトの一例として2016年5月に完成したばかりの「山之内元町長屋(大阪市住吉区)」を見せていただいた。2戸が連なった二軒長屋で、中に入ると中央に細長い土間があり、その左右が畳敷きやフローリングの部屋になっている。1戸1戸が完全に独立した造りのマンションとは違い、隣とゆるやかなつながりがある。今流行りの、シェアハウス的な使い方をしても面白そうだ。

■そこでの暮らしを知ることができる「オープンナガヤ大阪」

「オープンナガヤ大阪」のパンフレットは学生が制作。 「オープンナガヤ大阪」のパンフレットは学生が制作。
「オープンナガヤ大阪」のパンフレットは学生が制作。

 だが、長屋といってもピンと来ない人もいるかもしれない。端的にいえば、戸建て住宅が集まって1つの建物になったような住まいで、平屋や二階建てなど建物の高さは低い。各入り口が道路に面していて、マンションなどに見られる共用部分は設けられていない。大阪では明治時代から昭和初期にかけて、近代長屋が次々と建てられ、都市住宅の中心を担った。

 同研究科では、長屋の魅力を広めるため、毎年秋に「オープンナガヤ大阪」というイベントを企画している。市内にある複数の長屋を、外部の人間が自由に見られるように期間限定で一般開放する。案内係はそこに住み、働く人たち。好きなだけ何軒も見て回ることができ(無料)、普段目にできない内部の使い勝手や、ユニークな利用方法などを知ることができる。会場となる長屋は年々増えており、来場者もまた増えているとか。

「長屋は一つの文化。イベントを通して人と建物をつなぎ、保全ができればと考えます」と小池氏。ネットワークが広がり、居住を希望する人も増え、手ごたえを感じているという。

小さな庭があるだけで、気分が変わる。撮影/多田ユウコ
小さな庭があるだけで、気分が変わる。

「接地性が高く人を招きやすい」「古い雰囲気が逆に新鮮」と、現代的なマンションではなく、あえて長屋での暮らしを選択することで、今までとは違う生活を楽しむことができる。長屋に限らず、他のタイプの空き家もその可能性を秘めていそうだ。問題扱いされることも多い空き家だが、貴重な資源、遺産として見直していくのも前向きな取り組みだ。

オープンナガヤ大阪2016
http://opennagaya-osaka.tumblr.com/

大阪市大モデルによる長屋再生
企画:谷直樹・竹原義二(豊崎長屋)、計画:竹原・小池研究室、設計:ウズラボ(山之内元町長屋)、構造:桃李舎、施工:山本博工務店、

撮影/絹巻豊(豊崎長屋)、多田ユウコ(山之内元町長屋、オープンナガヤ大阪)

取材・文/中澤美紀子