旬をおいしくいただくならば vol.003

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【第1・第3火曜日21:00配信】
美しい四季に彩られたニッポン。“旬”がココロとカラダへ染み渡る。フードユニットつむぎやが、季節のお料理や食材をおいしくいただけるお店をご紹介。

◆今回訪れたお店 ごはん屋ヒバリ

広島から届く夏の恵みたちに囲まれるシアワセ

ちょっと極端な表現になるけど、旬の食材って「おいしい時限爆弾」なのだと思う。田舎から野菜や果物がどっさり送られてきた経験のある人だったら、共感してもらえるかな? 野菜や山菜など、季節の恵みが届いた後に、おいしくいただける時間は限られている。どんなにほかの仕事で忙しくても、料理をしたり、保存食を作ったり…“制限時間内に”モリモリいただくために、とにかくがんばらなきゃ! それはとってもシアワセな事で、でも同時にじわりと追い詰められるような気持ちにもなる(笑)。



旬と向き合うということは、時に追い立てられることでもある。そんな状況を軽やかに楽しんでいるのが、祖師ケ谷大蔵の「ごはん屋ヒバリ」の店主、田中聖子さんだ。人情味あふれた商店街を少し歩き、古びた建物の2階に「ごはん屋ヒバリ」はある。穏やかな空気の流れる隠れ家的空間。“厨房”というより“台所”という言葉がしっくりくる小さなキッチンで、田中さんは日々、旬と向き合っている。





このお店では、その日のおまかせコースを頼むのが正しいチョイス。田中さんが信頼を寄せる広島の農家さんが作ったお野菜が随所に活かされた料理たち。季節のお魚を使った一品など、トータル5皿でじっくりと旬を堪能できる。3500円というリーズナブルな価格も嬉しい。

「前菜の盛り合わせ」は、野菜の個性にあわせて、味の引き出し方を変えて。きゅうりは三五八漬けにした後、夏らしい香味野菜を絡めて。ブルーベリーをアクセントにした焼きナスのサラダは、焼くことで旨みを引き出し、焦げの風味もほのかにまとって力強い味わい。切り干し大根は、オリーブオイルと塩、酢だけでマリネしたクリアな味わい。農家さんに冷蔵貯蔵してもらうことでフレッシュ感をキープしているものだそう。それぞれを自家製のロースハムと交互に食べ進めるもの楽しい。

さっぱりとしたお出汁に浸かった「夏野菜の揚げだし」は、じっくりと素揚げすることで、それぞれの野菜の輪郭がよりくっきりしてくる。田中さんの料理はどれもキリリと力強い。それはつまり素材との向き合い方なのだと思う。



「前菜の盛り合わせ」



「夏野菜の揚げだし」

田中さんは、野菜との出会いで人生が変わってしまった人だ。広島で暮らしていたとき、知人と一緒に山奥にある温泉を訪ねた際に、ふとしたきっかけで連れていってもらったのが無農薬で野菜作りを営む小田さんの畑だった。

「小田さんの野菜がおいしすぎて、困ったなぁと(笑)。これはお店やるしかない、と思ったんです。」

その当時はわからなかったというが、小田さんの畑で育てられる野菜は古来種と呼ばれるもの。古来種は、人工的な品種改良を重ねたものではなく、その土地土地で種を継いでこられた品種のこと。“甘み”ということばかりにフォーカスされがちな現代の野菜だけど、古来種は、“甘み”だけでなく“酸味”や“苦味”“青くささ”など、素材本来の味わいが豊か。素材の個性を引き出すシンプルな料理は、小田さんが作った野菜へのリスペクトがあればこそなのだ。

「初夏になると青山椒が届いて、青梅が届いて、らっきょうが届いて。梅を干したり、シロップにしたり、らっきょうを漬けたりと大忙し。さらに夏にかけては畑の野菜たちの実りも豊か。夏は一年でもっとも食材が豊かな時期です」

夏の野菜は畑での成長も早い。農家さんも食べ時を逃さぬようにと、ここぞとばかりに送ってくれる。広島からの食材が届くたび、田中さんのスイッチが入る。シアワセな追いかけっこが今日もまた繰り広げられるのだ。





TEL:03-3415-4122
東京都世田谷区砧8-7-1 2F
営業時間:水曜〜土曜18:00?23:00 (22:30LO)/日曜12:00〜16:00
※ご予約をおすすめします
日曜:12:00〜16:00
定休日:月火休
席数:16
アクセス:祖師ケ谷大蔵駅から徒歩3分
カード:不可
予約:有
平均予算:夜4000円〜5000円/昼1500円〜2000円
喫煙種別:禁煙



物書き料理家。金子健一とともにフードユニット「つむぎや」として活動。雑誌、書籍、イベントなどで、和食ベースのオリジナル料理を提案。個人としてはライター業も。新刊「和食つまみ100」(主婦と生活社)が発売されたばかり。

WRITTING/YUTAKA MATSUURA PHOTO/NAOMICHI SEO