■連載/カーツさとうの週刊★秘境酒場開拓団

世界一入りにくい居酒屋が川崎にあった!!

世界一入りにくい居酒屋!川崎『T(仮名)』の評価

オヤジス度    ★★
エルドラ度    ★★★
オヤジナリティー ★★

 呑み屋のなかにはどうも入りにくい店というのがある! 物怖じしちゃうっていうんですかね。

 知らない街のスナックなんかを想像するとわかりやすい。一見さんを寄せつけないオーラといいますかね。店の中がまったく見えない構造だったりすると、そのオーラはさらに倍加する。

「オレ、この店入っても歓迎されないんじゃないか?」

 そんな想像が渦巻いたことは、みなさんも必ずやあるだろう。

 それに比べると居酒屋は入りやすい。むしろ入りにくい要素を見つけるのが難しいほどに、ウエルカムムードがみなぎっている。それが居酒屋だ! 

 しかし、そんな常識を覆す居酒屋を偶然見つけてしまった!!

 場所は川崎の八丁畷。もうこの時点で“入りにくい”の前に漢字が“読みにくい”という素晴らしいまでの人を寄せつけないムード! 読み方は“はっちょう”ときて“なわて”。“はっちょうなわて”だ。

 その日。オレと飲み友達とU氏、I氏の三人は、いい立ち呑み屋があるという情報を入手し、この読みにくい地名の街にやってきたのだが、いきなりその計画は頓挫した。

 その立ち呑み屋がもうなくなって蕎麦屋になっていたのだ。ガッカリしつつも、せっかくやってきた街なので、なんかいい呑み屋があるだろうブラブラと歩きだした。そして見つけてしまったのだ、世界一入りにくい居酒屋を!!

 八丁畷は、京浜急行とJR南武線の支線という二つの電車が交差する八丁畷駅というのがあるんだけど、その駅のすぐ横、JRの高架の下をくぐる道に、よくあるタイプの中に蛍光灯がはいっていて光る看板が置いてあった。店名の『T(仮名)』という文字が浮かび上がっている。

 しかし、看板はあれど店がない! 別にその『T』に行きたいと思ったワケじゃなかったけど、看板はあるのに店が見当たらない奇妙な感覚に、

「Tってどこにあるのよ?」

 と探してみたい気になった。ま、今流行りの言葉でいうとポケモンGO状態ってヤツですかね、やってないけどポケモンGO。

『禁断の路地の奥に潜む謎の階段!!』

 キョロキョロ回りを見渡すと、その看板の近くにJRの高架に沿って細い路地がある。もう本当に人一人がやっと通れるくらいの細い路地のうえに、その端には自転車だのゴミ箱だのが置かれていて、ますます通りにくい。

 ひょっとしてこんな路地の奥に店があるの? と思って路地の奥をのぞくと、奥の方は行き止まりになっている。それもそうとうに暗い。わかりやすくいうと、ほら、ニューヨークが舞台のアクション映画だと、必ず主人公が追い詰められるような袋小路あるじゃない? あんな感じ。

 そしてその暗い突き当たりをよーく目を凝らして見るとボーッとした明かりが灯っている。それが居酒屋の入れ口ならばまだいいですよ。

 照らしているのがなにかっていうと、アパートの外階段にあるような鉄の階段!

 路地の奥の行き止まりに謎の階段があって、それがなんか中空に浮かぶような構造になってる踊り場に繋がってる。いや、この構造がまたなんとも見たことないような感じなんですよ。

 で、その踊り場の奥に木のドアらしきものがあるのが、ぼんやりと闇の中に見える。

 もしや、あの路地の奥の鉄階段を登った先が居酒屋なのか? 恐る恐るその路地を入っていく。後を振り向くと、U氏もI氏も完全に怖じ気づいちゃって路地の中に入ろうともしない。

 たしかにその路地の人を寄せつけない空気感というか圧が壮絶なんですよ。横に迫る建物からは洗濯物かなんかがちょっとほしてあったりしてね。もう一歩踏み込んだだけで、

「勝手に入るな!」

 とどこかから怒られるんじゃないか? という立ち入り禁止感といいいますか、私有地感といいますか、何人たりとも寄せつけぬ拒絶のアプローチ!

 でも、もうこの先に店があるんだったら、こりゃもう絶対入ってみたいじゃないですか、大人の男の好奇心として。路地を一歩進むごとに、

「よござんすか?」

 と確認するように歩を勧める。よござんすか? よござんすね? よござんすか? よござんすね? 10メートルをどうにか進み、やっと階段の下に来る。もう一度後を振り返ると、U氏とI氏はやっと路地半ばまでやってきている。

 そして階段をまたも、よござんすか? よござんすね? 的に確認しながら上がっていく。そして辿りついた踊り場には『T』と書かれた表札っぽい看板と、中がまったく見えないどころか、その奥の音すらもまったく漏れてこないドアが門番のように立ちはだかっていた。

『ドアの向こうに待ち構える迷宮のアンドローラ!』

 この静けさは、ひょっとして店やってないのか? と思い、それでも勇気を振り絞り……本当にこの時の勇気の振り絞り方っていったらなかったんだけど、ドアを引いてみた。

 ドアはスルッと開いた。そこでオレは、またもや驚愕の光景を見ることになる!!

 てっきりドアの向こうには静かながらも居酒屋の光景が広がっているものだと思っていた。しかし、ドアの奥にあったのは、半畳ほどの小さな小部屋!

 それも部屋の正面には下駄箱。両横は壁。後は今入ってきたドアという密室のような部屋!

 そのあまりの意外性にちょっとワタクシ、一瞬パニクリましたね。なんかオレ、タヌキに化かされてるんじゃないか? そう思ったといってもいい。

 袋小路の奥が再び袋小路という奇怪性! これ以上、どう進んでいいかすらわからないラビリンス。謎が謎を呼ぶ、進退窮まった状態!!

 ここまで来るのにそうとうな勇気振り絞ったにも関わらず、その勇気はここで無駄におわるのか? そう呆然とした刹那!!

 左側の壁がスルスルと引き戸の様に開きだしだ! その時の衝撃をなんの表現すればいいのか? 本当に隠しトビラが開いたみたいだったもん。いや〜さっきまではポケモンGOかと思ってたけど、今度はドラクエですよ!!

 そしてその引き戸の奥には、ちゃんと居酒屋的な店があったのだ! いや、よくもまぁこんなすごいトコロで呑み屋をやろうと決断したよな〜この店の人も! 

 ドアを開けた時のオレの勇気もスゴイと思うけど、ここで店をやろうと思った店の人の方が数倍勇気あるよ!!

 ただし、一回この店を見つけ、ついにその奥まで辿りついた近所の人なんかは最高だろうね。ほら“隠れ家のような店”ってよくいうけどさ、隠れ家の“ような”じゃなくて“隠れ家そのものの店”だもん、ここまでいくと! ここまで隠れ家感のある建築物って、高校の修学旅行で行った金沢の忍者寺以来だもん、オレ。

 そりゃあ通いつめたくなるんじゃないの。そういう計算の上での開店か。

 左の引き戸を開いてくれた店の女性に「3人なんですけど」というと「どうぞどうぞ」という。下駄箱に靴を脱ぎ、ふと後を振り返ると、U氏とI氏はまだ階段の下にいた。「入れるって」と伝えると「マジ? マジ?」的に、やっと階段を上がってきやがった。

 そして3人でレモンサワー(450円)、地酒(500円)なんぞを呑み、シメサバ(680円)と、これはそうとうに絶品だった玉子焼き(580円)をつまみ、今日の大冒険に満足したのだった。

 やくみつるじゃないけどさ、現実世界の冒険は、やっぱりゲームよりドキドキするよな〜ポテチン!

世界一入りにくい居酒屋が川崎にあった!!

文/カーツさとう

コラムニスト。グルメ、旅、エアライン、サブカル、サウナ、ネコ、釣りなど幅広いジャンルに精通しており、新聞、雑誌、ラジオなどで活躍中。独特の文体でファンも多い。

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