『からだによいオイル 健康と美容をかなえる油の教科書』(井上浩義/慶應義塾大学出版会)

写真拡大

 人体にとって欠かせない栄養素の1つである脂質。食品それ自体に含まれているほか、食用油のように直接摂取することも多い。ところで最近、この「オイル」がかなりブームだ。亜麻仁油や魚の油、ココナッツオイルなどさまざまな動植物から採取したオイルが「健康や美容によいもの」として紹介されている。しかしあまりにも種類が多すぎて、「何をどう使ったらいいのか分からない」と戸惑っている方もいるのではないのだろうか。これは特に食用として使用する場合は問題になる。いくら健康にいいとはいっても、脂質は脂質。過剰摂取が好ましくないことは言うまでもない。またオイルによって効能や性質が異なるため、あるオイルが自分にとって役に立つとは限らない。

『からだによいオイル 健康と美容をかなえる油の教科書』(井上浩義/慶應義塾大学出版会)は、「どうしてオイルが健康や美容にいいのか」という、初心者にこそ読んでほしい本だ。個々のオイルの説明があるのはもちろんのこと 、そもそも脂質が身体でどんな役割をしているのか、あるいはオイルを構成しているそれぞれの脂肪酸の性質といったところまで踏みこんだ解説をしている。食用に使われているオイルのほか、これらの派生系ともいえる精油や石鹸を扱っているのも特徴的だ。まさに「油の教科書」を目指して書かれた1冊といえるだろう。

 著者によると、日本人の摂取カロリーはすでに第二次世界大戦直後の摂取カロリーを下回っているため、カロリーに着目したダイエットはそこまで重要ではないという。確かに脂質、つまりオイルは高カロリーの栄養素であるが、あまりに摂取カロリー(だけ)を気にしすぎるのもよくないらしい。それよりは食事の質やバランスを向上させることが重要だという。オイルに関していえば、オイルの選択、および炭水化物やタンパク質を含めたトータルの栄養バランスを整えることが大切だ。目的にあったオイルを正しく摂取することは、健康を維持するために必須の事柄といえよう。オイルは人体にとっては貴重なエネルギー源であると同時に、細胞における細胞膜を構成している物質でもある。

からだを構成する最小単位の部品ともいえる細胞、その形成に脂質が欠かせないのですから、脂質がなくては私たちのからだは一個の形を成すこともできないのです。

 さらに、オイルは免疫機能などの身体の働きにも関わっている。含まれる脂肪酸によって果たす機能が変わってくるため、不足しているものを適切に補っていくことが必要だ。例として、本文にあげられたトピックスを1つ紹介しよう。必須脂肪酸の1つであるオメガ6脂肪酸は炎症促進作用があり、免疫機能を働かせるのに役立っている。しかし免疫が過剰に働いてしまうと、血管を含む全身のあちこちで炎症が起こってしまい、かえって健康を損なってしまうのだ。そこで重要になってくるのが、オメガ3脂肪酸である。オメガ3脂肪酸には炎症を抑制する作用があり、免疫系が働きすぎてしまうのを防止する作用がある。現代人の食生活では、オメガ3脂肪酸が不足しがちで、逆にオメガ6脂肪酸の摂りすぎに陥りがちだ。そのためオメガ3脂肪酸を含むオイルを補うことが求められる。ただもちろんこれはあくまでバランスの問題であって、逆にオメガ3脂肪酸が足りていても、オメガ6脂肪酸が不足してしまえば免疫機能そのものが働かなくなってしまう。「オメガ6脂肪酸は身体に悪い、逆にオメガ3脂肪酸はたくさんとればとるほど良い」といった単純な話では済まないのだ。

 健康食品のブームには「分かりやすさ」や「手軽さ」が求められるようなところがある。その反面、物事を単純化してとらえてしまいがちだ。さきほどあげたオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸のように、実際はそう簡単な話ではないのにもかかわらず。多様な面を持つ事柄をその一面だけ見て満足してしまうのは、結果的に正確な知識から遠ざかってしまうことにつながるのではないだろうか。それはひいては、本来の目的――美容や健康にかえって悪影響を及ぼす可能性がある。本当の意味で正しくブームに乗るためにも、本書に書かれているような体系的な知識が必要なのだ。

文=遠野莉子