興奮を全力で「あああ!」「ヴァー!!」「のおおお!」に乗せ、解説よりイイ仕事をする新職業「スポーツ実況者」の巻。
スポーツ中継は実況&実況の時代!

スポーツ中継につきものの実況と解説。現在行なわれているリオ五輪のインターネット配信などを見ると実感しますが、実況と解説がない中継というのは結構寂しいものです。「スタジアムの音だけでやっています」のパターンは、スタジアムの音がそんなに入らないじゃないですか。現場のアナウンスとかが。

やはり、何か言葉が流れてくることは、大事だと思うのです。ずっと凝視しているわけではないので、ある程度の状況説明を音でやってくれると助かる。そして、それなりにルールやらはわかっているつもりですが、選手のミニ情報とか、現在の勝負の展開とか、技術的な説明とかがあると、ないよりはもちろん助かります。

僕は最近、中継で流れてくる音について「実況&実況」という新体制を意識するようになりました。従来は「実況&解説」で状況説明と技術解説を分担していました。しかし、実際に「今回の中継は盛り上がったなぁ」という記憶をたどると、そんなにスゴイ解説をされたことはありません。むしろ、解説者も一緒になって叫んでいる。

結局、実況や解説は「競技」という本体の添え物であり、面白さは本体に左右される。ものすごく面白い中継というのは、本体がまず面白く、その空気を盛り上げる状況説明などがあることが重要なのではないかと。古くは「前畑ガンバレ前畑ガンバレ」。近年では「伸身の新月面が描く放物線は〜」。最終的には名場面というのは「実況」のみによって作られる。

実況が場の空気に寄り添い、抑制されながらも興奮を湛え、説明ではなく感情がほとばしるような瞬間。それが素晴らしい。ただいたずらに騒ぐのではなく、本体の興奮に寄り添っていることが大事です。金メダルには最上級の興奮で、歴史的勝利には歴史的な興奮で、その格に見合ったものを提供していくこと。

そのとき、解説は無用の行為となります。最後の最後で説明することなんてないのです。最後は「いけーーーー!」と「ガンバレ!!」と「やったーーー!!」しか言うことなんてないんですから。ならば、解説者も一緒に興奮してしまったほうが、より盛り上がるというもの。松岡修造さん、織田信成さん、松木安太郎さんなどはこのタイプです。

僕はそれらを「スポーツ実況者」とカテゴライズすることにしました。そこそこの知識があることは大前提として、難しい知識を授けるよりも、盛り上がる空気を作っていくことをメインとする、にぎやかしの仕事。流行の「ゲーム実況」のようなものです。知識や情報は合間に控え目に挿入し、それよりも「一緒に楽しんでいこう」という空気感を、言葉に込めていく。ゲーム実況動画などもそうですよね。淡々と攻略法を解説するよりも、悩んだり困ったり、挑戦して、「うわー!」「やべぇ!」「やったー!」となっているもののほうが見ていて楽しい。

そんな「スポーツ実況者」に新鋭が登場しました。

その新鋭とは、陸上中継ではすでにおなじみの金哲彦さん。長距離走の中継を主戦場としつつ、最終的には投擲以外は何でもやりますというオールラウンダー解説者です。陸上中継と言えば、増田明美さん(オンナの豆知識)、小山裕三さん(フィールド全般)、金哲彦さん(トラック・ロード全般)で大体終わりというくらいの狭い市場で、金さんはとりわけ頻繁に登場されるお方。何でもかんでも金哲彦です。

リオ五輪も頻繁に陸上競技を解説されているのですが、現地で朝から飲んじゃっているのでしょうか、非常にテンションが高い。どちらかと言えば落ち着いた解説を持ち味としていたはずが、キャラが変わってしまっている。僕はそれを金さんなりの試行錯誤だととらえています。「いつも淡々としゃべっている特徴のないオッサン」からの脱却を図り、修造・松木に近づいていこうとする「実況者」としての欲なのではないかと。

まず12日の男子800メートル予選。第5組には日本の川元奨さんが出場していました。予選で3着に入れば準決勝への進出が決まる仕組み。川元さんはかなりイイ感じでレースを進め、3位になれるかなれないか、ギリギリのあたりで走ります。そのガンバリが金さんを熱くさせてしまった。さっき飲んだピニャコリャーダが頭にまわりダメダコーリャになってしまった。「ペースは落ち着いています」などとクチでは言っているのに、自分が全然落ち着かなくなってきた。残り1周の鐘が鳴り、川元さんがイイ感じだと気づいたとき、それは爆発します。

↓ラスト1周のバックストレートから始まる、スポーツ実況者のひとりハイテンション!


金:「さぁ切り替えてほしい!切り替えてほしい!」
金:「出てきましたよ、出てきましたよ、出てきましたよ!」
金:「さぁ、頑張れ!!」
金:「おーっしおっしおっし!」
金:「キタキタキタ!」
金:「ぬぁーーーもう少し!もう少し!もう少し!!」
金:「いけるいけるいける!!」
金:「いける!!いける!!」
金:「ぬぁっ!!よーしよーしよしよし!!」
金:「いけるいける!!」
金:「よぉーーーーーーーーっし!!」
金:「おおおおおおおおおおおおおお!!」
金:「これは……」
金:「今、最後、まくりましたよね!!」
金:「よぉしっ!!」
金:「これはね、最後、胸がどちらが先に…」
金:「いやぁ、興奮しました…」
金:「あああああああああああ」
金:「惜しい!!惜しかったぁ…」

競馬? ブー!

競輪? ブー!

競艇? ブー!

正解は、陸上男子800メートル予選です!

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これは「2周のレースで最後の半周だけ盛り上がった」という事例。半周でも十分に酔いどれギャンブラーの感じは出ており、「あぁコレ軽く賭けてるな」というのはビンビン伝わってくるのですが、もっと長い距離でもっと長く盛り上がることも、やぶさかではなかった。白羽の矢が立ったのは、女子3000メートル障害決勝。「さ、3000メートルだと…!」という驚きも漏れる7周半の勝負。金さんは「世界記録が出るかも?」という興奮で、レース前に出来上がっていました。

「あー、楽しみです!」という第一声に始まり、最初の半周でペースが遅いと見るや「あーーーー!!」と落胆の叫びをあげる。しかし、ひとりの選手が飛び出して独走を始めたことで、先頭集団は再び記録更新ペースで走り始めます。それを見て金さんは再び盛り上がってきます。2000メートルを6分0秒で通過すると「上がりましたよぉ!」とテンションアップし、「世界記録までいきますかぁ?」と逆質問。「いきますかこのまま!」とハシゴで二軒目に行くときのセリフを、テレビにドーンと乗せてきました。先頭はさらにペースを上げ、記録への期待感から金さんのペースも上がる。そして、世界記録に迫るジェベトの最後の追い込みに、それは爆発した!

↓残り1周、約1分間を「あー」だの「ヴァー」だの言いつづける解説者!これが「スポーツ実況者」というスタイルだ!
<陸上女子3000メートル障害決勝 ハイライト動画>

http://www.gorin.jp/video/5083556639001.html

金:「(残り1周でのタイムは)7分49秒ぐらいでしょうか?」
金:「微妙なところですね!!」
金:「最後70秒台でカバーすれば!」
金:「……世界記録にちょっと届かないので」
金:「68秒…でくれば世界新です!」
金:「あーーーーーコレもうカウントダウン!」(←何のカウントダウン?)
金:「本人は意識してます!」
金:「世界新記録いしく…意識してますね!」(※噛んだ)
金:「ペース上げてます!」
金:「ペース上げてます!」
金:「さぁーーーーー出るか!」
金:「(残りは)にひゃく!」(※あと200メートルの意)
金:「うあーーーーーーーー」
金:「さぁーーー最後の水壕上手く、上手く越えられるか!」
金:「おーっしゃぁ…あああああ!」(※成功と思いきや危ないの意)
金:「ちょっ……とぉ!!」
金:「さぁ!今!さぁ!あと18秒!!」
金:「さぁどうでしょう!」
金:「ヴァー!」(※魂の叫び)
金:「最後の、最後の障害!」
金:「こっから!!」
金:「ヴァーー!!」(※魂の叫び)
金:「のおおおおおおお!!」
金:「あと8秒!!」
金:「ぐおおおおおおっとおおおおおお!!」
金:「ヴァーーーとおおおおおお!!」(※魂の叫び)
金:「にびょぉぉぉぉ!!」(※記録まで残り2秒の意)
金:「ぐごおおおおおおおおおおおおお!!」
金:「のああああ…ああああああ!!」
金:「素晴らしい!!素晴らしい!!」
金:「世界新まであと1秒でした…!!」
金:「いやぁぁ……」
金:「手に汗を握りましたねぇ!!」
金:「やりましたねぇ!!」

オッサン、キャラ変わってるぞwww

明るくて元気で、いいじゃないか!

きゃああああああああクモだ!

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五輪の振り返り番組などで金さんは「うるさすぎる解説者・金さん」としてピックアップされることでしょう。そして、じょじょに言葉の化学反応が起きて「金にうるさすぎる解説者」というネガティブカンチガイで世間に知られるようになるはずです。陸上競技では「細かすぎる解説」だの「早稲田自分勝手すぎる解説」だのと、極端なキャラクターが相次いでいました。焦りの気持ちがあったのかもしれません。キャラが薄いな、と。

今後はより大きな声で絶叫していっていただきたいもの。陸上なんて、まぁぶっちゃけ、教えてもらうほどのこともありません。教えてもらっても「覚える気も必要もない話」ばかりでしょう。我々に正しいランニングフォームなど関係ないのです。人間が走ってるのと、時計を見てダラダラしてるだけなんですから。その合間に「ヴァー!」「ああああ!」「のおおおおお!」とやっていただけると、適度に盛り上がると思います。男子50キロ競歩あたりで、ずっとやっていただけると、時間も長いのでいいんじゃないでしょうか。世界記録ペースでも3時間47分かかりますからね。


100mは9秒間「ボルトォォォォォォォ!」って叫ぶ、それがスポーツ実況者!