人生における大きな買い物のひとつが「住宅購入」です。

結婚し、家庭を持ち、子どもが生まれたら誰でも「自分たちだけの城」は欲しくなるもの。ただ、その購入額が他の買い物と違い、3,000万円、4,000万円などと高額なのが特徴です。

1,000円、10,000円といった普段の買い物とはケタが違い、買い物そのものが非日常的な行為であるため、冷静さを失いやすく、一歩間違えると取り返しのつかない失敗をしてしまいます。さらに、住宅の種類によって失敗の種類も異なります。

では、どういった失敗があるのでしょうか? 今回は、戸建住宅を購入する場合の失敗の心理メカニズムについて2つほど解説していきます。

■1:掘り出しもの物件で失敗する「アンカリング」のワナ

不動産屋の営業マンがよく口にするセリフに、「この中古物件は掘り出しものですよ!」というものがあります。

ただし、掘り出しものにもいろいろな意味があることを忘れてはいけません。高級住宅街のなかにある高嶺の花のような人気物件もあれば、そのエリアの相場にくらべて圧倒的に安い物件もあります。

この「掘り出しもの」という一言に強い印象を持ってしまうと、その後に他の物件を見る際、その掘り出しものをベースにイメージが左右されることになります。こういった場合、買い手の心理にはアンカリングが働いています。

アンカリングとは、特定の数値や情報が印象に残り、それが基準点(アンカー)となって、その後の判断が揺れ動く心理現象のこと。

インパクトのあった価格や雰囲気よりも安かったり高級感があったりすれば「よりよい」という感想になるし、反対に高かったり安っぽかったりすれば「より悪い」というイメージとして残るのです。

一般的に、その物件が掘り出しものであるかどうかは、買い手が実際に住んでみないことには判定できません。「掘り出しものであるかどうか」は、買い手とその家族の皮膚感覚や五感が決めることだからです。

しかし、不動産は「お試し」ができません。そのため、営業マンのセリフひとつで買い手の印象が変わるのです。

価格や雰囲気などにより一度大きなインパクトを受けると、その後、いくら見学をしてもすべてアンカリングが働くことになります。

もしかしたら、本当は相性のいい戸建かもしれないのに、アンカリングのために「ここはダメ」と切り捨ててしまうことも生じます。

また、アンカリングにハマりすぎて、実際に住みはじめたら思ったほどよくなかった、トラブルが続発した……というケースも少なくありません。

アンカリングのワナにハマりそうになった場合、いったんその価格や雰囲気のイメージを脇に置き、そもそも自分自身が戸建購入で譲れないポイントはなにか、実際に住みはじめたらどう生活が変わるのかをあらためて考えなおしたほうがいいでしょう。

■2:オプションで失敗する「現在志向バイアス」と「プロスペクト理論」のワナ

「せっかく家を買うのだから、玄関のドアはいいものにしよう」「せっかく家を買うのだから、この造作家具(建物一体型のオーダー家具)をつけよう」といった具合に、「この機会だから」という言葉を接頭辞に、あれこれオプションをつける人がいます。

買うまでは冷静に、かつシビアに価格にこだわったにも関わらず、買うとなったら一転、財布のヒモが緩むのです。

なぜこうなるのでしょうか? これには「現在志向バイアス」と「プロスペクト理論」が大きく影響しています。

「現在志向バイアス」とは、行動経済学でいわれている心理現象で、「現在を将来よりもずっと重視する」心の動きのこと。

そのため、戸建てを購入する現時点を、家がやがて朽ち果てていく未来よりもはるかに重視してしまうのです。結果、「せっかくだから、住まいを最高のものにしたい」とアレコレオプションをつけてしまうことになります。

また、「プロスペクト理論」の柱のひとつに、「必ず損をするわけではなく、損をしない可能性もあるのならば、その可能性にイチかバチかを賭けて行動しよう」とする心理現象があります。

この時点で「住宅購入=博打」となっているのですが、本人としてはその意識はなく、むしろ「将来損をするとは限らない。ならば、どうせだからうまくいくと信じよう。大丈夫、きっとなんとかなる」と思いこんでしまいます。

それでなくても、元の住宅価格も数千万単位であり、オプションの価格も数十万から数百万単位。つまり、金銭感覚が狂いやすい状況になっています。

結果、過度に楽観的になり、あれこれオプションをつけた挙句、想定以上のローン返済に苦しむことになるのです。日常生活でこれまで以上に倹約を迫られるだけでなく、最悪、ローンで家計が破たんすることにもなりかねません。

住宅購入は博打ではありません。買うのは一瞬でも、住むのは10年、20年単位であり、へたすれば一生に関わってきます。同時に、ローン返済も、一般的には35年かかります。

そのため、住宅購入を決めた場合には、一層地に足をつける感覚をもち、今後の生活やローン返済のことを建設的に考える必要があるのです。

その他、マンション購入と同じく「限定合理性のワナ(わかりやすいものしか理解しない)」にハマって購入する土地の周辺状況や契約内容を精査せずに失敗するケースなどがあります。

繰り返しになりますが、住宅は一般的に「買うのは一瞬、住むのは一生」です。失敗に気づいたからといって安易に住み替えることはできません。

高額で、かつ人生に大きく影響を及ぼす買い物だからこそ、日常生活の買い物以上に冷静に、かつ慎重に「住んだ後のリアル」や「返済計画」を含めて検討すべきでしょう。

(文/税理士・心理セラピスト 鈴木まゆ子)