強い日差しの中スタートした、リオデジャネイロ五輪女子マラソン。日本勢惨敗の予兆は、8km過ぎにレースが少し動いた時の各選手の対応にあった。

 ゆっくりしたペースで始まったレースだったが、7.5kmあたりからアメリカのデジレ・リンデンを先頭にややペースアップすると、8km過ぎでは大集団がふたつに割れる形になった。その時、日本勢は全員、後ろの集団に入ってしまったのだ。

 田中智美を指導する山下佐知子監督は「調子も悪くなかったので、何であそこで間を開けられたのかわからなかった」と話す。先頭集団にはケニアとエチオピア、アメリカの各3名に、バーレーンと北朝鮮が2名ずつ。日本勢には「アフリカ勢が動くには早すぎる」という思い込みもあったのだろう。そのアフリカ勢の前にリンデンが出たのが見えず、ジワジワとペースが上がっていたのに気がつかなかった。

 その後、田中と福士加代子は後方集団の前で引っ張ったが、前方集団との差はなかなか縮まらない。10km過ぎの給水でアフリカ勢が再び動いたこともあり日本勢は一時、10秒以上も離される状況になった。

 そんな中で11.9kmから福士が単独で前を追い始め、12.4kmで追いついた。またアフリカ勢もペースを落としたため、田中も追いつくことができ、集団は18人ほどに膨れ上がった。

 しかし、20km手前から田中が北朝鮮の二人とともに遅れ始める。そして中間点手前では、それまで余裕を持って走っていたように見えた福士も急激に遅れ始めた。これで日本勢はメダルをかけた勝負から完全に脱落していった。

「金メダルを獲りたいと思っていたし、20kmのところでは集団の中でも居場所を作れたので、まだ金メダルを獲れると思っていました。でもそのあとで遅れた時には『もう一回』という感じではいけなかった。脚に来ていたし、呼吸もちょっとあがっていたので、20kmまでは楽にいけたけど、その中でもペースの上下がけっこうあったので。2〜3回目でやられてしまいました。最初に離された時は少し後ろ目にいたときでしたが、次は大集団の中の位置取りが難しかった」と福士はレースを振り返る。また田中も「給水のたびにアフリカ勢がペースを上げ下げしていたので......。それがあるとは分かっていたんですが、激し過ぎるのできつくなってしまった」という。

 ともに20km前後で離されてしまったが、その遠因のひとつに、その前の段階の8km過ぎで、集団の中での位置取りが悪く、対応できずに離されたことが挙げられる。結果、そこから先頭集団に再び追いつこうと脚を使ったことで、余力をなくしてしまったのだ。

 レースが本格的に動いたのは35km過ぎの給水から。名古屋ウイメンズマラソンでもお馴染みのユニスジェプキルイ・キルワ(バーレーン)が仕掛けると、先頭集団はジェミマ・スムゴング(ケニア)とマレ・ディババ(エチオピア)の3人に絞られ、最後はスムゴングが逃げ切って2時間24分04秒で優勝。キルワが9秒差で2位、ディババが26秒差で3位という結果になった。

 そんな中で日本勢は、福士の14位が最高で2時間29分53秒。田中は2時間31分12秒で19位になり、伊藤舞は2時間37分37秒で46位と、惨敗といっていい結果になった。

 ただ注目すべきは、山下監督が「怖いと思っていた」というアメリカ勢が、予想以上に結果を残したことだ。シャレーン・フラナガンの6位を最高に、途中先頭を引っ張り、最後はひとりになっても粘ったリンデンが7位。27km手前まで先頭集団にいたエイミー・クラッグが10位になっている。

 彼女たちの自己記録を見れば、フラナガンこそ2時間21分14秒だが、リンデンは2時間25分55秒で、クラッグは2時間27分03秒と日本選手より遅いくらいだ。本来なら日本勢が、アメリカ勢のようなレースを見せるべきだったし、できる力は持っていたはずだ。

 レース後、山下監督はこう話す。

「日本選手を見ると全体的には守りにいっているので、もう少し攻めることをしなければいけないと思います。まずは『暑くなれば日本に有利になる』という考えを変えるところからやらなければいけない。指導者や選手、医科学委員会の先生たちも含めて、よりタフな中でやってみることを考えるのも必要だと思う。選考会のあり方なども含めて、もう一度考え直していかなければいけないと思う」

 昨年の世界選手権も期待された選手が13位と14位に沈んだレースで、最後まで粘った伊藤が7位に入った。一応入賞という結果にはなったものの、それは決して成功とは言えないものだった。それでもその路線をそのまま踏襲して入賞を目標にしたことも、今回の惨敗の一因だろう。

 2020年東京五輪に向けて、新しい女子マラソン界の道を「見つけなければいけない」ということを、今回の結果を踏まえて今後意識する必要がある。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi