「外来種の生物の繁殖によって、日本固有の在来種の生物が絶滅している」。みなさんは、テレビや本などで、こんな話を耳にしたり目にしたりしたことはありませんか? メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』の著者で、早稲田大学教授・生物学者の池田先生は、フレッド・ピアスさんの著書で紹介されている例を引用しながら、外来種=悪という風潮を「外来種排斥原理主義だ」とバッサリ否定。実は我々日本人が毎日食べている「アレ」も本来は外来種だと教えてくれました。それは一体、何の食材なのでしょうか?

外来種は悪者なのか

『外来種は本当に悪者か? 新しい野生 THE NEW WILD』(フレッド・ピアス著、藤井留美訳、草思社)と題する本を読んだ。

日本では外来種というだけで、悪の権化のように言われているが、事情は外国でもさして変わらないようだ。著者のピアスは様々な具体的な事例を引いて、外来種というだけで忌み嫌う風潮を批判している。

私は、10年以上前から外来種というだけで、闇雲に排除しようとする風潮を外来種排斥原理主義といって批判してきたが(『外来生物辞典』 池田清彦監修、デコ編、東京書籍、あるいは『底抜けブラックバス大騒動』池田清彦著、つり人社)、基本的に私と同じ考えの著書が翻訳され日本語で発行されるのはうれしい。

ピアスの本は具体的な事例を沢山収録してあり、さらに生態系がスタティックなシステムでないことを述べている点でとても良い参考書であるが、理論的かつ包括的な観点から生物多様性並びに外来種問題について考えたい人は私が2012年に出版した『生物多様性を考える』(中公選書)も合わせて読んでいただきたい。

 アマゾンの売り上げランキングを見るとピアスの本はかなり売れているようだが、生物多様性の専門家と称する人も含め、外来種は排除すべきだという教義に頭を占拠されている人の考えは変わらないだろう。「思い込んだら百年目」というのは、どうやら、大多数の人間の脳に染み付いた性のようで、人類滅亡の日まで改善されることはないのでしょうね。

唯一の救いは、自然は人間の思い込み通りにはならないことだ。ブラックバスは外来種だから一匹残らず殲滅しようといくら頑張っても、ブラックバスは排除できないだろう。少なからぬお金と労力と時間を使って、結局ブラックバスは排除できないと分かって、やっと、ブラックバス殲滅運動は収まるのだろうね。なんて愚かなのだろうと思う。断言してもよいが、人類が滅びても、ブラックバスは日本の湖沼を元気で泳いでいるに違いない。自然は、人間が思い通りにコントロールできるほど、やわではないのである。



ピアスの本は南大西洋のアセンション島の記述から始まる。アセンション島は約100万年前に大西洋の海底から出現した絶海の孤島である。人類がこの島と関わりを持つ前は、海岸沿いはアオウミガメと海鳥の天国であったが、植物はトウダイグサ科の固有種が海岸に生えている以外は、コケとシダしか生えていない荒涼とした地であったという。

この島を緑の楽園にしようと構想したのは1843年に島を訪れたジョセフ・フッカーであるという。ダーウィンの友人で著名な植物学者であったフッカーは、この島の緑化計画を実行すべく、南アフリカの国立植物園や、自身が園長をしていたロンドンのキュー・ガーデンから沢山の植物を導入した。

 特に相性が良かったのは、タケやウチワサボテンの1種で、10年も経たないうちに、はげ山は鬱蒼とした雲霧林に変わり、グリーン山と呼ばれるようになった。山頂が859mのグリーン山は、いまでは標高600mを超えたあたりから約300種の種子植物が豊かに育っている。もちろんすべて外来種だ。

外来種の導入前はコケとシダしか生えていなかったのだから、植物の種多様性は著しく増大したわけだ。それでも、頑迷な外来種排斥原理主義者はグリーン山の外来植物を排除せよと主張するかもしれない。ピアスは言う。「外来種を根絶しようものなら、固有種のシダを含めて絶滅する在来種が出てくることは明らかだ」。かつては、丸裸の山腹に張り付いていた固有種のシダは今では外来種の苔むした枝にしか見られないという。

同じような事例はグリーン山のような極端な場所でなくともみられる。たとえば、日本の固有種であるクロサワヘリグロハナカミキリの幼虫は、かつてはキハダという植物を食べていたが、今では外来植物のハリエンジュをも食べるようになった。キハダのみを食べていたころ、このカミキリは大珍品であったが、ハリエンジュを食べるようになって普通種になった。

ハリエンジュは全国の河川の河原にはびこっている優占種であるため、食料が爆発的に増えたためである。ハリエンジュを排除したら、このカミキリは激減してしまうだろう。尤も、ハリエンジュを人為的に排除することは不可能だと思われるので、クロサワヘリグロハナカミキリもさしあたっては安泰である。

もっと極端な例は、オオフサモと2種のサルゾウムシの関係である。クロホシクチブトサルゾウムシとヤマトクチブトサルゾウムシは、環境省によって、「特定外来生物」に指定されているオオフサモのみを食草とし、現在のところほかの食草は見つかっていない。この2種のサルゾウムシはオオフサモの導入以前に記録があり、日本の在来種と推定されるが、元来何を食べていたかはわかっていない。現在は完全にオオフサモに依存している。オオフサモを除去したら、絶滅するだろう。

2500年前に日本列島に導入されたイネは、日本の低地生態系を徹底的に改変した「侵略的外来生物」であるが、そのおかげで、日本列島の人口は激増したに違いない。人間にとってのイネは、先に挙げた2種のサルゾウにとってのオオフサモと同じである。外来種排斥原理主義の主張を徹底すると、外来種のイネも排除対象になってしまうため、この人たちは、畑で栽培されている作物は外来種と言わないのだ(外来種の定義から外れるので排除しなくていいという理屈である)、といった自分たちの主張に都合がいい定義を捏造しているが、畑で栽培している外来作物を排除してしまったら、生活が成り立たないのでそのように言わざるを得ないのだ。

2種のサルゾウムシもまたオオフサモを排除してしまったら、生活が成り立たないので、在来種の生活を支えているものはたとえ人為的に持ち込まれたものでも、外来種といわない、と定義し直してくれ。言葉が喋れたら、そう主張するだろうね。

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『池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋

著者/池田清彦(早稲田大学教授・生物学者)

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出典元:まぐまぐニュース!