五輪中継が子どものモチベーションを引き出すツールに

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「フレー、フレー、と・か・し・き! がんばれ、がんばれ、ニッポン!」

米国女子プロバスケットボールチーム「シアトル・ストーム」でプレーしている、女子バスケ日本代表のエース、渡嘉敷来夢(とかしき・らむ)さんのオリンピック壮行会が、7月末にシアトル郊外で行われ、100人以上が参加した。

渡嘉敷さんが冗談を言って参加者を笑わせ、逆境を乗り越えた時の心の動きについて赤裸々に語ってくれたおかげで、会場はすっかり打ち解けた雰囲気に。最後はお決まりの(?)エールをみんなで声を合わせて叫んだが、筆者の息子はすっかりこの日本風のエールが気に入ったらしく、何かの拍子に「フレー、フレー、と・か・し・き!」と、口ずさんでいる。

前回の2012年ロンドン五輪の時は1歳半だった息子。あれから4年、5歳半にもなれば、「国」という単位を知っていて、「その国で一番すごい人たちが競い合う」というコンセプトもわかり、それが「オリンピック」と呼ばれるイベントであることを理解したようだ。


開会式を見ていたら、画面に映る国旗を見て、世界の国旗の本で探しては「あった!」と喜んだり、アメリカと日本はもちろん、行ったことのある国・聞いたことのある国、家族親戚友だちがいる国だと「見てみて!」と興奮していた。

しかし、日本人の母を持ち、アメリカで生まれ育って、日本語のプリスクールに行き、日本語も英語も話し、日本に祖父母などがいて何度も遊びに行っている5歳児は、日本とアメリカのどちらを応援するか悩むのだろうか。

「日本とアメリカ? どっちも応援するよ。だって、どっちもがんばってるから」

息子の中ではあっさり解決済み。確かに、どちらかひとつだけでなくてもいいのだ。

さて、競技が始まって、水泳は好きでも競泳を見るのが好きとは限らないだろうと思っていたが、やはりアメリカの競泳選手たちがすぐに息子にとってヒーローになってしまった。マイケル・フェルプスがガンガン泳いで画面に映りまくるインパクトは予想を超えている。

日本で生まれ育っていたら日本人選手を応援していたかもしれないが、アメリカでオリンピックの放送をしているNBCでは、当然ながらアメリカ人選手ばかり映すので、そうなってしまうのだろう。

ちなみに、坂井聖人がフェルプスに肉薄して銀メダルとなった男子200mバタフライでも、NBCの画面に映っていたのはほぼマイケル・フェルプスであった。

たしかに彼はアメリカが誇る超スーパースターだが、それにしても表彰台全体が映るのは一瞬で、金銀銅メダルの3人がくっついて撮影に応じている時でも、テレビ画面には日本人選手の顔がまったく入っていないか、入っていても半分ぐらいだったり、というのは日本人にとってはかなり物足りない。

せっかく世界のすごいアスリートたちが一堂に会するオリンピックで、いろいろな国のメダリストたちがもっと画面に出てくれれば、子どもの世界が広がって、モチベーションもあがるのではないだろうか。

と思っていたら、男子200m個人メドレーの準決勝で、萩野公介が余裕の泳ぎで1位になり、実況中継のアナウンサーが競技中から大興奮。萩野の名前を連呼し、順位が確定すると、「見てください!彼はまったく息切れもしていない!すばらしい!明日が楽しみです!」と叫んだ。

すると息子が、「日本もすごいね〜」と言い出し、「フレー、フレー、は・ぎ・の!」と連呼し始めた。

翌日の決勝では、マイケル・フェルプスが金メダルで、萩野は銀メダル。「やったー、1番がアメリカ、2番が日本!」と息子は喜んでいたが、やっぱりマイケル・フェルプスしか画面に映らなくて、私のほうはガッカリ。そんなにあの顔をアップで映してどうするんだと思うほどで、もうあきらめた……。

ところが、12日に行われた男子100mバタフライ決勝では、シンガポールのジョセフ・スクーリングがオリンピック新記録でフェルプスを破って金メダルを獲得。直後、ESPNのスポーツ記者が、8年前にまだ13歳だったスクーリングとフェルプスのツーショットと、スクーリングが競泳選手になる夢を持ってアメリカに留学して、その夢を実現したことをツイートし、これが拡散した。


マイケル・フェルプスが次の世代に与えた影響が計り知れないことがよくわかるこのニュース、もちろん、私も息子にその写真を見せて、「すごくがんばったんだねー」という話に持っていってみた。するとすぐに燃えるタイプ(?)の息子は、

「僕ね、マイケル・フェルプスより速く泳げるようになる!」と宣言。

やっぱり目から入る情報って、すごいインパクトなのだ。

「男の子は単純」「どーせ無理」
と笑う大人は実に多いが、オリンピックが息子のモチベーションを最大に引き出しているのは明白。オリンピックがどうのというよりも、何かひとつでも「好き」「やりたい」と思うことを見つけられるって幸せなことなのだ。

大野 拓未大野 拓未
アメリカの大学・大学院を卒業し、自転車業界でOEM営業を経験した後、シアトルの良さをもっと日本人に伝えたくて起業。シアトル初の日本語情報サイト『Junglecity.com』を運営し、取材コーディネート、リサーチ、ウェブサイト構築などを行う。家族は夫と2010年生まれの息子。