第2次世界大戦から71年。平和な世界を願うオーケストラ付き男声合唱曲「最後の手紙」は終戦の日に想起すべき「反戦鎮魂歌」である。写真は2012年7月18日サントリーホールでの演奏会(大友直人指揮、六本木男声合唱団、東京交響楽団)。

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第2次世界大戦から71年。平和な世界を願うオーケストラ付き男声合唱曲「最後の手紙〜The Last Message〜」は終戦の日に想起すべき「反戦鎮魂歌」である。

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「最後の手紙」は第2次世界大戦で亡くなられた12カ国の兵士の最後の手紙をもとに作曲家・三枝成彰氏が作曲。2010年に世界初演し、各国で演奏され感動を呼んでいる。

第2次世界大戦で亡くなった、日本、中国、朝鮮、米国、ソ連、ドイツ、フランス、イタリア、英国、ポーランド、トルコ、ブルガリアの12カ国13人の、死を前にした「最後の手紙」をもとにした13曲。それに、各国語で「私たちに平和を与えてください」という祈りを歌う終曲が付く。

「いのちの祈り」ともいえるこの曲は三枝氏が、自ら団長を務める六本木男声合唱団倶楽部(総勢約160人の市民合唱団)10周年のために、書き下ろした作品。「戦争を憎み、かつ平和を望み、祈る姿は世界共通であり、全人類がその姿勢を共有しようという、祈りと願いを曲に込めた」という。2010年に東京で初演されて以来、世界中で大きな反響を呼び、2011年11月にはジュネーブで公演、好評を博した。2013年4月にはロシア・ボルゴグラード(旧名スターリングラード)公演を成功させた。スタンディングオベーションが続き、拍手が鳴りやまなかった。

第2次世界大戦で亡くなった人々の最後の手紙が、1961年に『人間の声』という一冊の本として出版された。どの手紙も、残酷な戦争とそれによって愛する家族との絆が裂かれることが2度と起こらないように願うものばかり。三枝氏は東京芸大時代に和訳されたこの本を読んで以来、彼らの生きた声を、音楽の形で後に続く世代に残したいと思い続けてきた。多くの手紙の中から13通の手紙をもとに作曲、「戦争で命を落とした人びとの思いが、この作品を通じて、世界に平和をもたらすことを切に願ってやみません」と同氏は語っている。

レジスタンスで捕まり処刑された、フランスの16歳の少年の「最後の手紙」は「兵士たちが僕を連れに来ます。僕の字は少し震えていて、読みにくいかもしれません。それはえんぴつが短いせいです。死を恐れて怯えているのではありません。ささやかな蔵書はお父さんに。思い出のコレクションはお母さんに。一生懸命勉強した教科書は弟に。大切な日記は愛しいジャンヌに贈ります」。

中国兵は「服に涙が落ちる。誰も過去の日々を忘れることなど出来はしない。母に別れを告げなければならない時が来る」と辞世の手紙をしたためた。

日本人兵士は「日曜日の朝、思うのはいつもお前のこと。お前のまつげにそっと触れ、静かに抱いていたい。日傘をさし、青いプリンセスのワンピースを着たお前の夢を見た」と妻に宛てた。

アメリカ兵は「戦争は地獄だ、地獄だ」と叫び、イギリス兵は「神よ、僕たちに力を与えてください。僕たちが造ったものが世の中の役に立つものとなり、決して僕たちの支配者にならないように」と訴えている。

この曲は戦争の悲惨さをアピールする総合芸術といえる。当然ながら、悲嘆にあふれた曲がほとんどで、男声合唱と管弦楽が、激しく、時には切々と「絶望」と「別れ」を表現する。特に残された人への思いがヴァイオリンなどで悲しく美しく奏でられ、心に染みる。

舞台上のスクリーンに、英語と日本語でそれぞれの「最後の手紙」が映し出された。時折、ナレーションも入り、会場内には思わず涙ぐむ姿も。

演奏の最後にスクリーン上に、第2次世界大戦での各国別のおびただしい犠牲者数がつぎつぎ明示されたあと、「全世界で7千万人」の数字が冷酷に浮かび上がった。休憩をはさまず1時間45分ぶっとうしの演奏にもかかわらず、聴衆は最後まで熱心に耳を傾けていた。

同合唱団メンバーの弁護士は「音楽を通じて、戦争の悲惨さを改めて認識し訴える意義があると思い、これからもこの曲を歌い続けたいと考えています」と語っていた。(八牧浩行)