地方出身の女性が東京に上京するタイミングは、実は3回あります。

第1の波:「ファーストウェーブ」地方の高校を卒業し、東京への進学。

第2の波:「セカンドウェーブ」地方の学校を卒業し、東京への就職。

この2つの波はよく知られていますが、第3の波が存在していることは、あまり知られていません。

第3の波:「サードウェーブ」それは、30歳前後で地方での人生に見切りをつけ、東京に新たな人生を求めて上京する独身女性達の潮流。

この波に乗り、30歳前後で地方から東京へ上京してきた独身女性達を『Suits WOMAN』では 「サードウェーブ女子」 と名付けました。地方在住アラサー独身女性はなぜ東京を目指したのか? その「動機」と「東京での今」に迫りたいと思います。

 ☆☆☆

今回お話を伺ったサードウェーブ女子、橋本文乃さん(仮名・35歳)は兵庫県神戸市出身。色白の肌でスレンダー、常にパソコンが入った大きなカバンを持ちながらきびきびと歩く。一見おとなしそうに見えがちですが、はっきりと物怖じせずにズバズバと発言するところは勝気な関西の女性といった印象を持ちます。彼女は現在フリーランスで編集、ライター業をしています。

 ――「東京」ってどんなところだと思っていましたか?

 「敵地ですね。私だけの偏見かもしれませんが、関西人はとにかく関東にすごいライバル心があるんです。とにかくサラっとしたスマートさが好きじゃない。柔らかくなよっとした言葉遣いも好きになれない。関西で生まれ育った自分が東京に行くなんて思いもしていませんでした。だって私は神戸出身ですが、電車でいける距離に大阪があり、京都がある。関西でそろわないものなんてないと思っていたし、地方特有の不自由さも感じたことなんてありません。自分はずっと関西で生きていくと思っていました。なので、東京のことはすごい意識してライバル心だけは持っていたけど、リアルじゃない遠いところという感じですかね」

文乃さんは兵庫県神戸市生まれ。自営業の父親、会計事務所に勤める母親、国立大学を出た研究職のエリートの兄がいる4人家族で、最寄駅の裏が海岸という海の近くでのびのびと育ちました。

 「仕事が好きな両親だったので、小さい頃からずっとカギっ子でした。兄がいるんですが、5歳上で、自分が小学生高学年の時には高校生で帰りも遅かったので、夜になるまでずっと一人でした。でもちっとも寂しくなかったんです。何をしても怒られない自由な時間がとにかく楽しかった。両親は休みの日にはたまに遊んでくれましたが、とにかく仕事人間で放任主義。学校の成績は上の下くらいだったのですが、成績を見せたことはありませんでした。自分が行く高校も大学も自分で決めて、それを報告するという感じでした。反対されたこともないですね。まぁ親と仲は良かったので、寂しかったという記憶は残っていませんね」

大学卒業後は就職活動に苦労することなく、東京に本社がある大阪の出版社に入社したそうです。

 「配属されたのは、編集部で本当に寝る間もなく働いていました。出版社といったら花形の勤め先のイメージを持つ方が多いですが、1日に50件以上の取材のアポ取りの電話や1日その取材先にFAXを送り続けたり、間違いがないかひたすら事実確認、誤字脱字をしたりと、実際は地味な仕事がメインでした。でも、とても楽しかったんです。時間に追われている自分はまさにキャリアウーマンと酔っていましたね。とにかく評価されることが快感で、もっと頑張ろうもっと頑張ろうと日々努力していました」

そんな仕事に明け暮れる毎日の中でも、学生時代からの彼氏とお付き合いは続いていたのだとか。しかし職場で新しい出会いがあったといいます。

 「彼は東京出身で取引先の会社の方でした。同い年で最初こそ標準語に違和感はあったのですが、自分の仕事へ理解があり、とにかくスマートでした。当時は仕事であまり彼氏に会えておらず、それを愚痴っぽくいつも言われていたので、あんなに毛嫌いしていたスマートさに惹かれてしまいました。それに男性の多い編集部にはやっぱり男尊女卑みたいなのが少しはあって。なのでこちらも負けるもんかと同業者の男性はライバルでしか見れなくなっていたんです。そこへスマートな営業部のスーツの男性が現れたんですよね。編集部は私服でよかったのでダサい人が多く、より一層スーツが輝いて見えて。すぐに彼氏と別れ、お付き合いを始めました」

その後会えない間もケンカすることなく、理解のある彼との交際は続きますが、1年ほどたった時に彼が仕事の転職で東京に戻ったといいます。

 「実は特に寂しくなかったんです。女のために仕事を選ぶような男性は嫌いだったので笑顔で送り出しました。物理的な距離があるほうが、会えなくても仕方ないと思えるから楽になるとさえ思ってました。こんな気持ちを持っていたんですが、ちゃんと好きでしたよ。私自身、仕事が一番なので、学生の時のように恋愛にそこまでのめり込めなくなっていました。仕事のライバルとして男性と戦ううちに、自分自身の考え方も男性化していったんですかね。今になって仕事好きな両親の血がしっかりと受け継がれているなとしみじみ思います」

神戸の人は地元に誇りを持っている人が多いとか。

遠距離が始まって1年、今度は文乃さんに転機が訪れたといいます。続きは〜その2〜へ。