『ブラブラ珍所 〜イケメンに会いたくて〜』(竹内佐千子/ぶんか社)

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 ルッキズム、という言葉をご存じでしょうか。lookism、和訳すればつまり、見た目至上主義とか、見た目による差別とか、そんな感じの意味を持つ単語です。日本語でも、人は見た目じゃない、なんて説教染みたコトバがある一方で、『人は見た目が9割』と銘打った本がベストセラーになっていたりして…。見た目がコンプレックスという人もいれば、逆にその見た目を武器にしている人もいます。数年前には「※ただしイケメンに限る」なんてネットスラングの爆発的な普及もありましたが、どうしようもなく惹かれる美しさを持った方というのは、少なからず居るものですよね。

『ブラブラ珍所 〜イケメンに会いたくて〜』(竹内佐千子/ぶんか社)はその名の通り、山手線の駅を順に巡り、各地の珍所を回りながらイケメンを探すコミックエッセイ。著者である漫画家・竹内佐千子氏は、恋愛対象が女性であることを公言しているレズビアンです。漫画誌『モーニング』の公式webサイト「モアイ」では、ルームシェアをしながら暮らす追っかけ女子ふたりを描いた『2DK』を連載し、人気を博しました。

 そんな彼女が雑誌企画として挑んだのがこの「ブラブラ珍所」の旅。というのも『2DK』の主人公同様、竹内氏の趣味も追っかけなのです。恋愛対象は女性であっても、イケメンはまた別枠であるとのこと。その守備範囲は佐藤 健に東方神起、神木隆之介にEXOなど、なかなかの広さのようです。

「無差別にイケメンが好きというわけでは…」と語る同氏ですが、同じくイケメンフリークである担当編集者・M田氏との珍道中では、見目麗しい人たちに、清々しいほど振り回されています。出版社の力を借りて接触したアイドルに骨抜きにされたり、一目惚れした店員さんに再会すべく、大して美味しくもないカフェに通ってみたり…。同氏の慌ただしいココロの動きは、追っかけ経験者ならきっと、思い当たる部分があることでしょう。

 その中でも秀逸なのは、第22話「池袋で想いを託すなら…の巻」に記されているエピソードです。大好きな東方神起のツアーが終わり、燃え尽き症候群状態になってしまった竹内氏。当面活動休止となるメンバーのことを想いながら、こんな言葉を零したのでした。

なんかも〜イケメンとかどうでもいいわ…

しばらく大人しくすごしたいです
帰ってくるまで千羽鶴折るみたいな気持ちで手芸とか工作とかして生きていきたいです

 芸能人なら活動休止、スポーツ選手ならシーズンオフや引退など――日々と並走していてくれた楽しみが途切れてしまうことへの、とてつもない絶望感。場合によっては勢い余って、そのジャンル自体への興味すら薄れてしまうこともあるでしょうか。費やしてきた時間やお金が大きいほど、次にときめきを得られる日が来るまでをどうやり過ごすのかは、悩ましいテーマですよね。そして、手芸や工作という案を浮かべてしまうところまで、その通りだと言わざるを得ません。何らかの「手仕事」に向き合うことで、忘れようと努力するんですよね。ええ、私も経験がありますとも。歯の抜けたようなかなしみというのはきっと、ああいう状況のことを指すのでしょう…。

 しかしこのイケメン探しの旅、実は途中で挫折することになります。見切り発車からの企画倒れです。そしてそこからは吹っ切れたように、男装のイケメン女子とデートに走ったり、台湾で話題の「変身写真」を扱うスタジオで、自身がイケメンになってみたり…。うーん、何だか企画がコケてからのほうが、著者が素直に楽しんでいる気もします。

 同書の帯の宣伝文句には、「大金はたいて(?)やりたい放題!!このふたり、完全に終わってます…」とありますが、 現役の追っかけさんにとってはきっと、共感できる点も多いことでしょう。追っかけ仲間とお茶する気分で、気軽に楽しめる1冊です。

文=神田はるよ