高リスク繁殖が原因? 動物愛護後進国ニッポンの現状

なぜこんなにも疾患を持つ犬が多い?

私は小型犬を飼っているので、小型犬用ドッグランをよく利用するのですが、そこで犬達が走り回る様子を眺めていると、あることに気がつきます。
多くの犬の後肢の動きがどこか不自然なんです。
小型犬に膝蓋骨脱臼が多いことはよく知られていますが、その9割が遺伝性と言われています。
あまりに多くて当たり前のようになっていますが、そもそもなぜ、こんなにも遺伝性の疾患が多いのでしょうか。

「ペットショップで購入した子犬が病気になった」という話は以前からありますが、犬の販売数、飼育数が減りつつあるのに、なぜ国民生活センターに寄せられる購入ペットの病気トラブルに関する相談は減らないのか、これについての記事が、2016年5月26日の朝日新聞の朝刊に掲載されました。
取材を受けた獣医師は、「見た目の可愛さだけを考えて先天性疾患のリスクが高まるような繁殖が行われている」こと、つまり「高リスク繁殖」が一因であると指摘しています。

日本は遺伝性疾患の犬が多い?!

以前から日本は、世界から見ても遺伝性疾患の犬が目立って多いと言われてきました。
こうした犬を生み出しているのは、日本の特殊なペット事情にあります。

CMやドラマに出演した犬種に人気が集中したり、より小さく愛らしい容姿の個体を好んで求めるといった風潮は、日本独自のものと言われます。
そうした需要に応えるべく、商業的な繁殖の現場では、短期間に特定犬種の子犬をできるだけ多く生み出すことが主眼となり、遺伝の問題がわきに追いやられることになりました。

たとえば、ラブラドールレトリーバーの股関節形成不全やチワワの水頭症など、犬種によって発現しやすい病気があります。
こうした病気がすでに発現している親犬は繁殖ラインから外すべきですが、発現していなくても因子を持っている場合、見た目は健康なので交配が繰り返され、遺伝病の因子が子孫に受け継がれて拡散されることになります。

因子を持つ親犬どうしからは、病気になる子犬が4分の1の確率で生まれることが分っていますし、ミニチュアダックスで人気のダップルなどは、この毛色の遺伝子を持つ犬どうしを交配すると、死産や病気になる子犬が生まれる確率が高く、禁忌とされています。

これまで犬の遺伝病が解明されていなかったことや、そういった子犬を求める側の問題もあったので、ブリーダーばかりを責めることはできません。
しかし、今後遺伝病リスクのある繁殖を避けるには、ブリーダー側の努力が必要です。
ましてや「売れる犬」の量産のために、禁忌を無視した繁殖は行われるべきではありません。

高リスク繁殖は防げる?

今では様々な研究により、50の病気について、その犬の病気因子の有無を見極める遺伝子検査が可能になりました。

ドイツの動物保護法では、犬の遺伝子チェックによって子孫に高い確率で病気が発現する場合は繁殖を禁止していますし、オーストラリアの動物保護法でも、呼吸困難や眼球突出などを「虐待繁殖」の特徴に定め、繁殖の制限を行っています。
日本でも、犬の遺伝病の広がりを食い止めるために研究を進めている機関(http://jshd.or.jp/index.html)があり、個人でも自分の犬の遺伝子検査を申し込むことができます。詳しくはこちら→http://www.veqta.jp/

しかし、現在の日本では、犬の交配・繁殖を制限する具体的な法律がなく、繁殖業者に遺伝子検査を義務付けすることもできず、虐待繁殖の明確な定義も定めていません。
別の言い方をすれば、繁殖の知識が不足していてもブリーダーになれるという事です。

勉強熱心で健全な交配を行う『シリアスブリーダー』と呼ばれる人々も存在しますが、全体としてはごくわずかです。
流通している子犬の多くが、パピーミルで産出されているという事実が、遺伝性疾患を持つ犬を多く生み出す土壌となってきたことが指摘されています。

動物愛護先進国になるための提言

社会全体で、高リスク繁殖を制限し遺伝病を持つ犬を減らしていくためには、多くのことをクリアしていかなければなりません。

そのためには、どのようなことが必要なのか、考えられることを挙げてみました。

最低でも8週齢規制の実現を

まず遺伝性疾患を発現する子犬が当たり前のように販売されるのを防ぐには、最低でも『8週齢規制』を実現させること。
現在、販売が許可されている生後45日では病気の有無を見極められなくても、8週齢規制になれば、そのぶん把握できる可能性が広がります。

現実には、病気が見極めやすくなるのは生後4ヶ月以上であると言われており、病気が発現した子犬をどうするかといった問題も依然残りますが、まずは8週齢規制から、ではないでしょうか。

子犬が生み出される現場を健全に

犬の保護活動の世界ではよく「蛇口を締めなければ意味がない」という言い方をしますが、その意味でも子犬流通のスタート地点である『繁殖業に関する法整備』は不可欠です。
具体的には下記のようなことが考えられます。

健全なブリーダーを育てるため従事者の繁殖に関する知識習得を必須とし、資格免許制度を設ける最新の研究情報を共有するため、定期的に勉強会を開催する繁殖犬の遺伝子検査を義務づける行政もしくは獣医師との連携など、ブリーダーで健全な飼育繁殖が行われているか、チェックするシステムを構築する

繁殖、流通、販売の当事者たちによる自浄作用に期待

高リスク繁殖を生み出している複雑な背景を正して行くには、愛護法が先進国に追いつくのを待つだけでは厳しいものがあります。
国際小動物医学研究所の筒井敏彦所長は「この問題は、ペットショップとブリーダーが協力し、繁殖の現場から遺伝病を減らしていくしかない」と述べていますが、実際、一部のペットショップチェーンでは、入荷した子犬の検査で異常が見つかったり販売した子犬が病気を発症した場合、ブリーダーに連絡して繁殖の制限を促すといった努力が始まっています。
まだまだ一部のようですが、こうした動きは今後広がって行くことが予測されます。

そのように考える根拠は、少子高齢化です。
犬の購入者は年々減少傾向にあり、これまでと同じ調子で販売し続けることは不可能です。
一方、子犬を量産してきたパピーミルの経営者たちも多くが高齢化しており、多数の犬を抱えることは体力的に厳しくなりつつあるといいます。

こうした現実を踏まえ、衛生的な環境で犬種と頭数を絞って健康な子犬を繁殖し、希望者に直接もしくは受注制で適切な価格で販売する方が、経費等の面でもより効率的であるというムードと倫理観の業界全体への浸透、いわば自浄作用に期待したいところです。

買う側、飼う側の意識を向上させる

前述したように、日本ではメディアで人気の出た「売れる犬」が市場に出回るという“社会現象”が繰り返されてきました。
これを支えたのがパピーミルであり、質より量の繁殖の狭間に消えて行った命がたくさんあります。

目がない、片足がないといった重度の障害を持って生まれた子犬も、保護活動者達によってレスキューされるようになり、これまでバックヤードに隠れていた事実がどんどん表面化しています。
それでも私たち一般の飼い主が知れることはごく一部ですし、日本のペット流通の問題そのものを知らない人も、いまだ少なくありません。

真に動物愛護先進国に追いつこうとするのなら、まずは起きていることの背景をひとりでも多くの人が「知る」こと。
それによって目指すべき方向性はしだいに明確になります。
犬を愛する一人一人が、これから日本に生まれてくる犬達の幸せをも視野に入れて選択を重ねることはとても大切です。
子犬を求めるなら、健全な犬の繁殖・販売に努めている正規ブリーダーやペットショップを選ぶことも大切なアクションのひとつと言えるでしょう。

まとめ

後を絶たない「ペットショップで買った犬が病気だった」トラブル。その背景にあるのが高リスク繁殖であり、

「人気犬種が欲しい」「見た目の可愛い犬がほしい」といった買う側の意識の偏りパピーミルやペット流通に関する法整備の遅れ

などが大きく関係しています。

犬が病気になって獣医さんに行くと、「この犬種にはよくある病気ですよ」「小型犬には多いです」などと言われたりします。
多くの場合、専門知識を持つ獣医師が言うのだから「そういうものらしい」という認識に留まり、先天性疾患を「よくある病気」で片付けてしまうこと自体が、実は不自然なことであるというところまでは、なかなか考えが及びません。

また購入から時間が経過し、すっかり家族の一員となってから愛犬が病気に倒れた場合、多くの飼い主は「飼い方が悪かったのでは」と自分を責めがちです。
それが遺伝病であっても、目前の治療に気を取られ、問題の本質にまでは、なかなか思いが及ばないものです。

食に関しては「消費者が賢くならなければ!」とよく言われますが、これはあらゆるジャンルに言えることです。
ましてや命あるものです。
生まれてしまった子犬は、どんな遺伝病を抱えていようとも命の灯が消える日まで生きねばなりません。
人間の欲が犬に苦しみを与えている現実、その苦しみのリスクを排除できるのも人間である事実を忘れてはいけないと思います。