バスの中からパフォーマンスを楽しむ?NYで生まれた斬新なショービジネス

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マンハッタンで「ショー」を楽しむ

もし皆さんがニューヨーク観光にやってきたならば、ブロードウェイのショーはやはり欠かせない観光の目玉の一つとなるだろう。

ショービジネスのメッカ、ニューヨークでの観劇は、世界的に有名なショーから「オフ・ブロードウェイ」と呼ばれる中小規模の舞台で見ることのできる通好みのものまで、その選択肢は様々。

上演スケジュールや好みに合わせて、多様な選択肢があるのが魅力的だ。

NYで生まれた新しい「ショー」が話題に

そして近年そのニューヨークのショービジネスに切り込んできた新しい「ショー」が話題となっている。

それが「ライド(The Ride)」である。

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Photo : NYCOARA

ライドのビジネス・モデルはこのニューヨークにあっても全く斬新なもの。

ショービジネスと言っても、観客が座るのはホールのシートではなくバスの車内だ。

ライド向けに1台およそ1億5千万円をかけて改装された特製のバスの車内の座席は、全て進行方向に対し左向き。

つまり道路の片側だけしか見られない格好となる。

そしてそのバス左側から屋根部分までは、ほとんどがガラス張り。摩天楼のビルの先までを見上げることができる。

パフォーマーたちの路上ショーを楽しむ

観客を乗せてスタートしたバスは、約75分の間市内を縦横無尽に運行する。

その要所要所で、街行く人と思われたパフォーマーたちがいきなり路上でのショーを乗客たちに見せてくれるという趣向となっている。

披露されるパフォーマンスの内容も様々。ダンスやジャズの演奏、バレエにスタンダップ・コメディといったニューヨークならではのものはもちろん、ヒップホップにラップ、小芝居で笑いを取る漫才的なものや、パフォーマーではない一般の通行人をも巻き込んだのものまで…そのノリの良さはさすがニューヨークといったところ。

RIDE Fazzino Breakdance

Photo : NYCOARA

しかしその真髄はといえば練りに練られたショーの内容だ。

バスがスタートしてすぐに観客を巻き込むムード作りや、バスの機能を一通り、そして分かりやすく観客に伝える手法など、きめ細かく構築された演出はまさに世界一のショービジネスの街、ニューヨークのその最高峰レベル。

観客がどこの国のどのような人であっても、一瞬でその独自の世界へ引き込まれていく様には目を瞠るばかりである。

RIDEballet

Photo : NYCOARA

車内には二人のホストが搭乗する。洒落た司会ぶりとともに、車内に仕掛けられた様々な特殊装置が観客を盛り上げる。

各パフォーマーからの音声は無線で車内へ放送される。ショーは一方的ではなくあくまで双方向。

日本で言えば小さな小屋でのお笑いコントのように演者と観客が一体となっる親近性が特徴となっている。

現在では日本語を含めた他言語にも対応しており、英語が得意ではない観光客にも人気だ。

貸切や特別なツアーにも対応しており、結婚式やパーティーなどに利用するケースもあるのだとか。

Experience the Ride. Performers POV

Photo : NYCOARA

成功した新ビジネス

このように非常に独特なライドのビジネス・モデル。

創業者のリチャード・ハンフレイ氏はブロードウェイのショーの演出を手がけてきたエンジニアという経歴を持つ。

事実ライドの特製バスには音響設備や振動を伝える特殊装置、照明装置やLEDディスプレイなどによる特殊効果が重要な要素であり、この辺りはハンフレイ氏の経験が生かされた部分。

同氏は「自由の女神は素晴らしい観光スポットですが、そうなんども足を運ぶというものでもありません。でも素晴らしいショーなら何度見ても楽しいもの。バスという形ですので、交通機関と思われてしまうかもしれませんが、われわれのビジネスはあくまでサービス・ビジネス、ショー・ビジネスなのです」とその独自性を訴える。

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Photo : NYCOARA

ショービジネスはITビジネス

いかにも華やかなニューヨークらしい新しいショービジネスではあるが、バスの改装や、その管理、市当局への許可申請や安全確保、そして何よりパフォーマーの確保とその事前準備には大変な苦労があったのだという。

The Ride Vehicle Interiors

Photo : NYCOARA

現在は4台を運行するバスは特殊な改装車のなため、乗客は50人程に制限されるほか、繁忙期に車両を増やすなどといったことも不可能。

ビジネスとしてはサービスの品質を上げることでリピーターを増やし、可能な限り空席を排除するといった地道な努力を要求される。なかなかに厳しいもの。

ショーのレベルを維持するために、業界トップレベルの給与で一流のパフォーマーを確保するほか、緊急時のためのバックアップなども必要となる。

運行ルートで事故があって通行止めになった場合にどうするか。

悪天候や大渋滞で予定通りの運行が困難になったらどうするかなど、ニューヨークならではの問題への事前準備は数えるときりが無いという。

RIDEbreakdance

Photo : NYCOARA

しかもアイデア自体は以前より温めていたものの、その実現は自らが疑問視していた時期が長かったという。

しかし昨今のIT技術の普及などにより、ようやくその実現に漕ぎつけた。

車内には観客と一緒に二人のホストが乗車しているが、実際にはさらにエンジニアも乗車しており、各所に配置されたパフォーマーとホスト、運転手らをスマートフォンで結び、オンライン経由での位置情報の共有や機材の同期などに利用している。

そう、ライドはショー・ビジネスでありながらもITビジネスという一面も併せ持っているのである。

しかしこの面倒くささが結果として、類似ビジネスの出現を拒むことにつながっている。2016年現在でも具体的な競合が出現しておらず、事実上の独占状態でビジネスとしても大成功だ。

創業経営者のリチャード・ハンフレイ氏も「ニューヨークで創業したことはわれわれにとって幸運なことでした」と指摘。

その真意は「ショービジネス間の競争がし烈なニューヨークでの成功のためにあらゆることに砕心すれば、今後世界に行っても成功するビジネスモデルが構築できたことを意味するからです」と、自らのサービス水準の高さに自信を見せる。

そして総合サービス産業へ

そのビジネスの基軸は単なるショー・ビジネスに留まってはいない。

市中を運行する間、要所要所における観光ガイドを社内に設置されたディスプレイやガイドらにより実施する。

アーティストのパフォーマンスを提供する当初の手法のみならず、現在ではニューヨークの街をより一層理解する内容に特化したものなど、バリエーションを幾つか用意している。

ニューヨークという特別な観光都市における市場からの多様な要求に対応する、新たなサービスビジネスと言えるだろう。

ride tapper

Photo : NYCOARA

ライドの側も「今後はショー・ビジネス、エンターティメント・ビジンスとしてだけではなく、総合的なサービス・ビジネスとしてのあり方を模索していきたい」と、意気軒昂。

自社のバスに加え、海上での船舶による観光を合わせたものなど、新たなサービスを追加中。

日本での展開は、特にその道交法の制限などで困難が多いとはいうものの、「オリンピックで海外から観光客が増えていくことを考えれば、非常に魅力的な市場であることは確かです」と、その抱負を隠さない。

エンターティメント・ビジネス、そしてサービス・ビジネスに重要なのは「チームを大事にすること」とハンフレイ氏。

「この種のビジネスは一人でできるものではありません。またそれぞれの分野に、それぞれのエキスパートを必要とします」。

やもすればドライな経営こそが欧米風なのだと勘違いしがちだが、彼らこそは真の意味での家庭的な経営を維持しているようにも思える。

日本で経営不振からの打開を目指すビジネスパーソンは、今の時代だからこそその日本的な経営手法を欧米の成功企業に倣うべきなのかもしれない。

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