超少子高齢化社会の日本において、現役世代から徴収するが高齢者の受給額を賄えなくなってきていることは有名ですよね。メルマガ『辛坊治郎メールマガジン』では、昨年度の年金積立金の収支に関する大手3紙の報道内容を紹介。同じニュースにも関わらず見出しから内容まで正反対の朝日、読売の報道内容を紹介した上で、本当のところ去年の年金は赤字だったのか?黒字だったのか?明確に解説してくれています。

国民年金の収支は赤字か?黒字か?

またも、新聞を開いて椅子から転げ落ちました。先週土曜日に朝日新聞を読んでいたら、縦横10センチ程度の小さな囲み記事に出くわしたんです。8月6日土曜日の4面です。

その記事の見出しは「厚生・国民年金 3.2兆円赤字 15年度GPIF運用損影響」で、本記は以下です。全文掲載します。

「厚生労働省は5日、サラリーマンが入る厚生年金と自営業者らが入る国民年金の2015年度決算(時価ベース)を公表した。あわせると3兆2458億円の赤字。赤字は5年ぶりで、過去3番目の規模。年金積立金管理運用独立法人(GPIF)による5兆3千億円の運用損が影響した。

厚生年金は2兆7448億円の赤字だった。GPIFによる赤字は約5兆円だが、保険料の引き上げなどで前年度より3兆8509億円多い収入があり、赤字幅を縮めた。国民年金は約5009億円の赤字で、GPIFによる運用損約3千億円と被保険者の減少による3261億円の保険料収入の減少などが響いた。

それぞれの収入のうち、給付に使わなかった計2兆3793億円はGPIFの積立金に繰り入れられた。」

私はこの記事を読んでまず、「さっぱり分からん」と思ったんです。どうです?

皆さんこの記事で、昨年の年金の状況がどうだったのか理解できましたか?とりあえず「運用の失敗で損したんだな」という印象しか残りませんよね。

そもそも年金会計において、朝日新聞が言う「赤字」の意味が分かりません。赤字って普通、単年度で支出が収入を上回ることを意味しますよね。だとすると、積立金の運用は、その年度の赤字や黒字には関係ない筈です。ところが記事には「積立金の運用で5兆円損して、3兆円の赤字」って書いてあるんです。これって完全に理解不能です。

いったい何が言いたい記事なんだ?と頭の中がクエスチョンマークで一杯になった後、読売新聞を開いて、仰天しました。

そこには同じ厚生労働省の発表について縦横7センチほどの囲み記事が掲載されていたんです。朝日と同じく8月6日の第4面です。見出しは「厚生、国民年金黒字続く」です。これはメインの見出しで、サブの見出しには「昨年度、積立残高は減少」とあります。

こちらも短い記事ですので、以下全文掲載します。

「厚生労働省は5日、公的年金の2015年度の収支決算を発表した。サラリーマンが加入する厚生年金は2兆2635億円の黒字で、自営業者らの国民年金も1157億円の黒字だった。厚生年金の黒字は、雇用改善による被保険者の増加などが理由という。黒字は厚生年金が5年連続、国民年金は7年連続となる。

厚生、国民料年金を合わせた積立金残高(時価ベース)は142兆7078億円で、前年度より3兆2458億円減った。「年金積立金管理運用独立法人」(GPIF)が運用する株式の評価額が下がったことが影響した。」

どうです、皆さん。頭の中がごちゃごちゃになりませんか?朝日は昨年度の年金決算を「赤字」と報じ、読売は「黒字」と伝えています。「何が何だか」って感じですよね。他の新聞はどうかと調べてみたら、毎日新聞の見出しは「厚生年金2.7兆円赤字 15年度積立金運用損響く」と朝日新聞とそっくりな報道になっていました。

読売が「黒字」で、朝日・毎日が「赤字」、同じ事を報じている筈なのに、見出しも記事の内容も正反対なのにはびっくりしますよね。これじゃあ、一般の人がどの記事を読んでも、結局去年の年金がどうだったのかさっぱりわからないと思います。

朝日が去年の年金決算を「赤字」と報じた背景にはいつものように、「どんな小さな記事でも、安倍政権攻撃に使う」という固い意志があります。読売の「黒字」報道に安倍政権擁護の意図があったかは微妙ですね。いずれにせよ、どの記事を読んでも、年金の全体像は分からないでしょう。

それじゃあいったい、昨年の年金会計は本当はどんな状況だったのか、ここで分かりやすく解説します。

まず、年金に黒字も赤字もありません。年金は商売じゃありませんからね。そもそも厚生年金が始まった時には、年金は積立方式でした。ところが戦後のハイパーインフレで積立金がぶっ飛んで、積立方式としては年金が機能しなくなったもんだから、厚生労働省は「賦課方式」なんて言い方を編み出して、現役世代の給料袋から天引きする年金保険料を、本人のために積み立てるんじゃなく、その時代の高齢者に横流しすることにしてしまったんです。

それでも戦後の長い間、現役世代に比べて年金を受け取る高齢者の数が圧倒的に少なかったですから、毎年剰余金が出ました。これが積もり積もったのがいわゆる「年金積立金」です。

ところが過去20年、高齢者が激増する一方、保険料を納める現役世代が相対的に少なくなってしまった上に景気も悪くて給料も伸びず、当然給料の一定額を徴収する保険料収入も伸びなくなりました。一年間に現役世代から徴収する保険料が、その年に高齢者に支払う年金額を下回る年度が出始めたんですね。

年金は商売じゃないので赤字も黒字もないんですが、百歩譲って単年度で年金支給額より年金保険料が少なかった場合、その状態を「赤字」、逆に保険料収入で年金を支払った後で「おつり」が出た状態を「黒字」とすると、昨年は読売が書いたように、厚生年金、国民年金ともに年金支給が保険料収入だけで賄われて、なおかつ2兆円以上の「おつり」が出ているんです。もっと簡単に言うと、昨年度は積立金に手を付けずに年金支給が出来たんです。

この状態を報じるのに、「黒字」とすべきか「赤字」とすべきか、言うまでもないでしょう。

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『辛坊治郎メールマガジン』より一部抜粋

著者/辛坊治郎

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出典元:まぐまぐニュース!