オリンピックで金メダルをとると、その後の人生が大変だ(※イメージ)

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 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は、「金メダル」。

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 オリンピックで金メダルをとると、その後の人生が大変だ。

 当然だが、周囲からは「金メダルまでとったんだから」「金メダルをとるような人が」という目で見られる。

「金メダリストが車内で痴漢撃退!!」となると「さすが、金メダル!」となり、「金メダリストがスーパーで万引き!!」となると「金メダルまでもらっといて何してる!?」となるだろう。

 当人からすれば「いや、金メダル関係なくね!?」と言いたくなるに違いない。見て見ぬフリができないのは金メダルによるものでなく、ふとした出来心は金メダリストだってある。良いことしても、悪いことしてもつきまとう、金メダルの呪縛。

 金メダリストの再就職先というと指導者・解説者、専門外だとタレント・政治家……だろうか。金メダリストの専門外の「再就職」はどこか据わりの悪さを感じる。何のために政治家になったのっていう人もいるし。

 カート・アングルというアメリカのプロレスラー、この人はアトランタ五輪・レスリングの金メダリストだ。アマレスからプロに転向し大活躍した。

 アメリカンプロレスはキャラ設定が明確だ。アングルはもちろん金メダリストの超大型新人。だがメチャクチャなヒール(悪役)で売り出した。金メダリストなのに悪いヤツ。

 アングルは首からいつも自慢げに金メダルをぶら下げている。みんなあんたが凄いのは分かってるんだから、わざわざ自慢しなくても……。つーか、家にしまっとけよ。

 マイクパフォーマンスでは「君たちはボクのような金メダリストと試合できるのを光栄に思いなさい」みたいなことを偉そうに語る。レスラーには珍しく一人称が「ボク」(日本語訳だけど)。なるほど優等生は「ボク」っぽい。そのくせ、反則や奇襲攻撃も平気でする。たまに自慢の金メダルを奪われて半べそをかく可愛い一面も。三枚目的要素も持ち合わせている。

 不遜でスゴく嫌なヤツなんだが、試合になれば見事なスープレックスで観客を魅了する。「やっぱり金メダリスト、やりよる!」とみな感心する。

 でも最後にはセコい反則で勝ち、金メダルを首にかけて逃げるように退場。観衆は「YOUSUCK!!」の大合唱だ。

 一般的には金メダリストとして模範的な振る舞いを求められるはずなのに、この背徳感。金メダリストなのに「クソ野郎」と罵られる。カート・アングル、気持ちいいだろうなぁ。

 一方、観客も《金メダリスト=成功者》への羨望・嫉妬……単純に言うと「あんまりいい気になってんじゃねーぞ」という、普通は口にしづらい思いをためらうことなく吐き出せる。結果的に観客は、プロレスラー・アングルのパフォーマンスに対して称賛の拍手を送るのだ。

 お互い、とても良い関係だ。金メダリストという経歴を最高に生かした「再就職」ではなかろうか。

 あと、まるで関係ないが五輪メダリストと、笑点メンバーの師匠方がバラエティー番組に出てるときの空気感って、なんか似てる気がする。「成し得た人。でも、軽くイジってもいい人」を扱う感じが、なんか似ている気がする。面白がりつつ、気をつかう。

 メダルと座布団、どちらも扱いが難しい。

週刊朝日  2016年8月19日号