『ストリート・オーケストラ』 (C)gullane

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(…前編「実話をベースとした音楽映画」より続く」)

【映画を聴く】『ストリート・オーケストラ』後編

音楽大国の深みを感じさせる演奏シーン

言わずと知れた音楽大国のブラジル。先日のリオ五輪の開会式では、カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルといった世界中の音楽ファンに愛されるシンガー・ソングライターが出演して祭典を盛り上げていた。

一般的に外国人の考えるブラジル音楽といえば、やはりサンバやボサノヴァ、それにカエターノ・ヴェローゾらを代表格とするMPB(Música Popular Brasileira)のイメージが強い。しかし本作で描かれるスラム街の若者にとってそれらの音楽は“伝統音楽”でしかなく、もっともリアルで親しみの感じられる音楽はヒップホップだ。そういうわけでこの作品は、これまで作られてきたオーケストラものとはひと味違った、ブラジルでしかあり得ないミクスチャー感覚を多分に含んでいる。

『ストリート・オーケストラ』のタイトル通り、本作で描かれるオーケストラは街の喧噪とともに呼吸し、成長していく。これまで自分が受けてきた音楽教育が彼らの前では何の意味も持たないことを知った主人公のラエルチは、ある日彼らを円形に並ばせ、サッカーボールをパスし合うかのように楽器のアドリブでフレーズをつないでいく遊びを教える。するとストリートで鍛えられた子どもたちの勘のよさが活かされ、音楽に生命が吹き込まれていく。

また、楽団の要である少年がヴァイオリンでバッハを弾けば、その友人はカヴァキーニョ(ウクレレのような弦楽器)で難なく伴奏をつける。そういったやりとりのひとつひとつに、ブラジルの人々の音楽的な身体能力の高さと深みを感じないではいられない。

オーケストラが題材なので、劇中にはもちろんクラシックの名曲の数々が使われる。先のバッハのほか、パッヘルベル「カノン」、パガニーニ「カプリース第20番」、リスト「慰め 第3番 変二長調」、シューマン「チェロとオーケストラのための協奏曲Op.129」、それにモーツァルト「きらきら星変奏曲」などなど。それらを実際のエリオポリス交響楽団やサンパウロ交響楽団らが演奏しているのだから、サウンド的にもすこぶるリッチだ。

日本では治安の悪さばかりが報道されがちなブラジルだが、いっぽうで本作のモデルになったエリオポリス交響楽団誕生のエピソードに代表されるような音楽教育も充実を見せている。つねにストリートからポピュラー・アートを生み出してきた国ならではのオーケストラの響きに、ぜひとも耳を傾けてほしい。(文:伊藤隆剛/ライター)

『ストリート・オーケストラ』は8月13日より全国順次公開。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。

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