■連載/文具ソムリエール菅 未里の「誘惑文具」

 使いこまれた道具に対してよく、「味があるね」などと言いますよね。その人が道具と過ごした歴史が、見える形で表れているということです。文房具も同じ。木や革などでできたものをずっと大事にしていると、味が出てきます。

 使いこんだ文房具独特のツヤは、主に、素材が手の脂を吸った結果です。特に木製の文房具は、脂を吸いやすいですね。中には、使いこんだ文房具独特のツヤを出すためにクリームを塗りこむ方もいらっしゃいます。このように、文房具の味はお手入れによって深みを増すものでもあるんです。

 しかし同時に、物は使っているうちに汚れてもきます。では、味と汚れの違いは?

それは味なの?汚れなの?使い込まれた道具に感じる深みの判断基準

・清潔「感」?

 今お伝えしたように、手の脂を吸って輝くのは、味です。でも、食べ物をこぼしてできたシミは、普通は汚れに分類されますよね。では、使いこんでいるうちにできたシワは……?

 味かもしれないし、汚れかもしれません。

 思うに、味と汚れの違いの一つは「清潔感」です。不潔な印象を与えるものはどう言いつくろっても、味とは言えないじゃないですか。

しかし、そもそも清潔感とはなんでしょうか? 「清潔」じゃないんですよね。あくまで「清潔感」です。「感」……。主観が入ってしまいます。

・味は歴史を感じさせる

 味と汚れの区分に、できるだけ客観的な基準を立てるならば、歴史があるかどうかではないでしょうか。

 手帳に水滴による汚れがあったとします。それが単にペットボトルの水をこぼしただけだったら、汚れ。でも、雨の中必死で取材をしていた、みたいな歴史があったら一種の勲章になる気がします。それは汚れではなく、味ですよね。

 ところが、ここで新たな問題が生じます。この区分は、説明しなければ本人以外には伝わらないんですよ。かといって、いちいち文房具との歴史を語るのもちょっと野暮ですよね。

 そう考えると文房具の味は、自分で楽しむだけにとどめたほうがいいのかもしれませんね。

それは味なの?汚れなの?使い込まれた道具に感じる深みの判断基準

菅 未里

文具ソムリエール。毎日の生活がちょっと楽しくなる文房具を紹介するウェブサイトhttp://misatokan.jp運営。大学卒業後、文具好きが高じて雑貨店に就職しステーショナリー担当となる。現在は会社員として働く傍ら文具ソムリエールとしてメディアで文房具の紹介、執筆、撮影協力などの活動を行っている。

構成/佐藤 喬 撮影/干川 修