『ウルトラマン完全版I』(楳図かずお/復刊ドットコム)

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 特撮界に燦然と輝く『ウルトラマン』シリーズが、今年で生誕50周年を迎える。嬉しいのはアニバーサリー記念として、過去に名著といわれたさまざまな書籍が次々と復刻されていることだ。あの巨匠・楳図かずお氏による伝説のコミカライズ作品『ウルトラマン完全版I』(楳図かずお/復刊ドットコム)も、そのひとつ。

 楳図氏といえば『おろち』や『猫目小僧』など、一般的にはホラー漫画の大家として知られる。しかし『まことちゃん』のようなギャグ系や『漂流教室』といったSF作品まで幅広く手がける、オールマイティな漫画家なのだ。とはいえオリジナル作品で十分に勝負できる氏が敢えてコミカライズに挑むのだから、そこに至るまでにはさぞかし劇的なドラマが……と思っていたのだが、著者曰く「来るもの拒まず、と引き受けました」。……まあ、そんなモンですよね。

 それにしても、とにかくこの楳図版『ウルトラマン』は異色である。本作の第1回は「バルタン星人の巻」。シリーズ中でも有名なキャラクターであり、スタートにふさわしいチョイス……と思われた。しかし、である。ここに描かれるバルタン星人はガソリンを吸い、セミのような羽を広げて空を飛ぶ。さらにバルタン星人の特徴でもある「フォフォフォ」という発声ではなく「ケケケ」「フハハハハ」など高らかな笑声を上げるのだ。さらにいえばウルトラマンはやたらと硬質に描かれ、特徴のひとつ「カラータイマー」の警告音は一般的に「ピコーンピコーン」あたりだと思うが、本書では「カキーンカキーン」となっている。

 これについて楳図氏は「編集者に連れられて、TBSの試写室でパイロット版というんでしょうか、短い映像をみせられたんです。それ以外は、最初の回の台本と、ウルトラマン、バルタン星人の立ち姿の設定を渡されて、これでお願いします、と」いう状況だったと語る。本作は『ウルトラマン』の放送と同時期の連載であり、第1回が掲載された『週刊少年マガジン』1966年7月10日号の発売は、1966年7月17日の『ウルトラマン』第1話放送よりも早い。ゆえに細かい設定も分からないまま、独自の解釈で展開しているというわけだ。いわれてみれば「バルタン星人の巻」は全10回なのだが、回を追うごとにTVのストーリーとリンクする部分が出てくる。五里霧中の状態から立て直そうとする作者の苦労が偲ばれるが、それでもしっかりと物語を成立させるあたりに楳図氏の力量の高さが感じられる。

 そして本書最大の特色が、全体に流れるホラーテイストだ。「バルタン星人の巻」では人間がバルタン星人に変貌していく姿や、TV版よりも昆虫色の強いバルタン星人が陰影濃く描かれ不気味さを醸し出している。さらに「なぞの恐竜基地の巻」では巨大な爬虫類が町に出て、人々を襲う姿が凄まじい。加えて楳図氏といえば、やはりあの「恐怖の表情」である。目を見開き、口を大きく開けた状態で「うわあああ!」とかやられると、ホラー耐性のある人でも卒倒しそうなイキオイだ。氏もインタビューで「ホラーで大事なのは、ストーリーの怖さなんです。それはこの作品でも変わらない、不変のテーマですね」と述べている。つまり本作は最初からホラー作品として描かれているのであり、子供向け特撮作品のコミカライズといえど、恐怖を感じるのは当然といえよう。

 実は『ウルトラマン』シリーズのコミカライズには楳図氏以外にも、結構な大物が参加している。『8マン』の桑田二郎氏や『ゲッターロボ』の石川賢氏などがそうだ。それぞれが自身のカラーを打ち出して描いており、一介のコミカライズで終わっていないあたりが面白い。この楳図版もまさにそうだが、欲をいえば「バルタン星人の巻」のようにTV版のストーリーに縛られない、独自解釈の物語が全編を通じて描かれたものを読んでみたかったと割と本気で思っている。

文=木谷誠