“なりたい自分”をめざした末に、うつ状態に…新種の「燃え尽き症候群」

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 働き過ぎがたたって、朝起きられなかったり、会社に行きたくなくなるといった症状を、燃え尽き症候群と呼ぶ。ここまではよく知られた話ですが、その原因を考えたことはあるでしょうか。

 なぜ抜け殻になるまで働いてしまう人が生まれてしまうのでしょう?

 英「エコノミスト」誌が運営するサイト「1843」に、先月、興味深い記事『Minds turned to ash』が掲載されていました。

 精神分析医の筆者ジョシュ・コーエンによると、“燃え尽き(Burn out)”そのものは旧約聖書でも書かれているほど古いのですが、現代社会でのそれは、どうも事情が違うらしいのです。

 コーエンが実際に診察した2人の男女の例から明らかになっていきます。

◆エリートが仕事中に幻覚やパニックに襲われ…

 投資銀行で週90時間も働いていたスティーブ。学業優秀だった彼は、入行間もないころから花形部署に配属され働きづめの毎日。すると、あるとき仕事中におかしな幻覚に悩まされ、そのまま魂の抜けたような状態に。

 自分を呼ぶ声や、電話のベルが聞こえるとパニックを起こし、シャツは汗でびしょびしょ。ついには出社拒否にまで至ってしまったのです。

 そんなスティーブは、絵にかいたようなエリート人生を歩んできたといいます。小さいころから成績はオールAの優等生。野球チームではキャプテンを任され、大学も奨学金で通い、投資銀行に就職。何ともうらやましいキャリアですが、スティーブにとっては違うのだそう。

「親が書いたシナリオ通りの役回りを演じるのに忙しくて、それが本当に自分が望んだものかどうかをきちんと吟味する時間すらなかった」。

 つまり、自らの分別で意味のある決断をしたという実感を得られないまま、なんとなく就職までたどり着いてしまった。そのため、週90時間のオーバーワークも“シナリオ通りの役回りを演じる”作業の延長線上にしかない出来事になってしまったのですね。

 しかし、それもとうとう限界がやってきた。こうして優等生スティーブは、“燃え尽き”てしまったのです。

◆キャリアウーマンが燃え尽きたわけ

 続いては、音楽プロデューサーをしているスーザン。大きな仕事を任され、前途洋々かと思いきや、「どうしようもない鬱の真っただ中にいる」と言って著者の診察を受けに来たのだそうです。そんなスーザンの場合も、キーワードは“実感”。

 彼女の夢を実現させるため、惜しみない援助をしてきた両親。しかし、そんな両親の存在こそが、スーザンを悩ませているのです。どういうことなのでしょう?

 それは、彼女が自らの道を歩みだそうと思っても、これまでのサポートがあまりにも手厚すぎて、一体どこから本当の人生が始まるのか、その区切りが見えなくなってしまったのですね。

 だから、今している仕事や持っている家や車も、全て両親が用意してくれたもののように感じてしまい、日常に確かな実感が持てなくなる。すると、関心は未来のことばかりになってしまい、一方で満たされない現実が山積みになっていく。

 それが、スーザンにおける“燃え尽き”なのですね。

◆“あなたには無限の可能性がある”という嘘

 以上2組の症例から、コーエンは現代社会ならではの問題を見るのです。それは、“成功こそが人生最大の目的であり、幸福である”とする風潮。なぜこうしたポジティブな姿勢が、“燃え尽き”を生んでしまうのでしょう?

 それは、“〜しなければならない”制限よりも、“〜できる”自由を優先させてしまうことで、“自分が何者であるか”が見えなくなってしまっているからなのですね。小さいころから“頑張れば〜できる”とか“なりたいものには何でもなれるよ”と応援され続けてきたために、自分のキャパが際限なくあるように感じられてしまう。