費用は、手作業は1体2万3千円(骨壺サイズ6〜7寸)。粉骨機を使った場合は1体1万5千円(同6寸〜)。立ち会いには、立会料1万2千円が必要。作業時間は、手作業の場合は2時間から5時間(撮影/写真部・長谷川唯)

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 粉骨を専門に行う業者がある。東京の下町に施設を構える「サライ」もその一つ。真夏の夕刻、記者は初めて粉骨の現場を見て、体験した。

「遺骨を砕く現場」。そう聞いて、暗く冷たい雑居ビルの一室で粉砕機が「バリバリバリ……」と音を立てながら骨を粉々にする、おどろおどろしい場所を想像していた。が、そうではなかった。

 訪ねたのは、下町風情が残る東京都江東区にある粉骨業者の「サライ」。静かな住宅街の通りに面しており、白を基調とした明るく清潔な室内。看板がないので、ここで「粉骨」が行われていると聞かされなければ、アーティストの工房もしくは研究ラボと思うに違いない。

「元は趣味のジェットスキーの道具などを置いていた場所だったんです」

 と、サライ代表の甲斐浩司さん(49)が笑顔で迎えてくれた。

 サライは海洋散骨を行う「パイル21」が、6年ほど前に粉骨専門の部署として立ち上げた。今では月300件近い依頼があるといい、15平方メートルほどの室内には、全国から「ゆうパック」で届いた骨壺の入った段ボールや、粉骨されて「出荷」を待つ骨などが所狭しと並べられていた。

●環境への負荷も考え

 いま、遺骨を粉末化するサービスを行う業者は全国に20社ほどあると見られるが、急速に増えたのはここ1、2年。粉骨への関心が高まっている背景を、甲斐さんは、供養の多様化にあるという。

「墓じまいをされる方が増えたことと、海洋散骨など自然葬を選ぶ方が増加しているのが理由だと思います」

 墓じまいをした後、遺骨を引き取る必要があるが、新たに納める納骨堂などはスペースが限られている。その点、粉骨すると骨の体積が5分の1程度になるという。また、海洋散骨や山林散骨といった自然葬では、遺骨とわからない程度に粉末化(一般的に2〜3ミリ)することが基本ルールとなっている。

 実際に粉骨はどのように行うのか。サライでは、機械を使った粉骨と手作業の2タイプある。手作業を希望するのは全体の1割程度。小さい子どもを亡くした親からの依頼が多く、立ち会いを希望する人も少なくない。

 この日、手作業で粉骨したのは、病気で亡くなった中年男性の遺骨。妻が海洋散骨のために、サライに依頼してきたという。

 手順は、こうだ。

 まず骨壺に向かって深く一礼。次にステンレストレーに遺骨を移し、磁石と目視で、棺桶に使われていた釘や、故人の歯の詰め物といった異物を取り除く。

「後は、つぶしていくだけです」(甲斐さん)

 その言葉通り、乳棒で遺骨をひとかけらずつ叩いてつぶす。ある程度細かく砕けたら、直径30センチほどの乳鉢に移し、さらに乳棒で叩いて細かくし、最終的に粉末状にする。

 砂のようになった遺骨を見て、同行した本誌デスクは「きれいですね!」と感嘆の声を上げた。

 実は、高温で焼かれた遺骨には、酸化した有害物質の六価クロムが基準値の300倍近く含まれる。サライでは、骨灰専用の還元剤を作業の最初と最後に遺骨にふりかけ、環境負荷が少ないとされる三価クロムに換える。粉骨された骨は真空パックで袋詰めにして化粧箱などに入れ、依頼主の元などに届けられる。

●遺族からの感謝の言葉

 それにしても、粉骨は大変な作業だ。記者も体験させてもらったが、見知らぬ人の骨を砕いていると人間の死への恐怖が生々しく伝わってきた。それでもこの仕事を続ける理由を、甲斐さんはこう話した。

「遺族からの『ありがとう』の一言。それ以外にありません」

(編集部・野村昌二)

AERA  2016年8月15日号