「フリーリレーのメダルを獲るというのがこんなに嬉しいものだとは思わなかったですね。メドレーリレーではずっとメダルを獲っているけど、フリーリレーはまた違った嬉しさがある。コーチ席でリレー担当コーチの久世さんをイジリながら。みんなで大喜びをしていたんです」

 日本代表チームの平井伯昌ヘッドコーチは、こう言って明るく笑う。1964年以来、52年ぶりのフリーリレーのメダル獲得となった、8月9日の4×200mリレー決勝。2レーンを泳ぐのは予定通りだった。

 第3泳者だった小堀勇気は「前日に萩野が200m自由形を戦っていたのを見て、チームで『アメリカが少し抜け出している状況だから、確実にメダルを獲得しよう』と話しました。そのためには決勝は6コースか2コースになれば、波の影響もなく泳ぐことができるだろうと話をして」と作戦を立てていたと語る。

 昼の予選では5位通過で、この結果を松田丈志は「3泳までは混戦だった(1位から6位までが1秒差)だったので、ちょっと頑張ってしまいました。だから(江原)騎士(ないと)と小堀には『予選では俺が頑張ったから、決勝ではふたりで3秒上げろ』と話したんです」と笑顔で振り返る。

 夜11時38分から始まった決勝で、1泳の萩野公介は、200m自由形3位のアメリカのコノル・ドワイヤーには先行されながらも、2位で2泳の江原につないだ。その江原は予選よりも1秒速いタイムで泳いで3位でつなぐと、小堀がこれまでの自身のリレー最速ラップを縮めて、前にいたオーストラリアをかわして2位になり、一気にメダル獲得の可能性を引き寄せた。

 そして最後の松田は「予選を思いのほか頑張ってしまい、少し疲れがあった」と言いながらも、予選より0秒02だけ速いタイムで泳ぎ、イギリスにはかわされたものの、オーストラリアの追撃を振り切って3位でゴールした。

 リレー担当の久世由美子コーチは「萩野くんを除く3人が(萩野は欧州遠征組だったため)それぞれの所属で練習をするのではなく、リレーチームとして一緒に練習をしたいということだったので、国内で調整したのがよかったと思う。私より丈志の方がみんなを引っ張ってくれたし、メダルを獲るという意識を高めてくれた」といい、松田を中心にチーム力を高めた結果の勝利だった。

 江原がこう振り返る。

「日本選手権で代表が決まって気が抜けたようになった時に、丈志さんが話しかけてくれて喝を入れてくれました。メダルという目標をしっかり持たせてくれたのは丈志さんだと思います。3人で練習をやると、自然に競り合う形になるので、それが本番のレースで生きました」

 また小堀が続ける。

「僕はあまり練習に身が入るタイプではないので、丈志さんには『頑張れよ』と発破をかけられたし、江原も毎日のように盛り上げてくれたので......。ひとりではここまで来られなかったと思う」

「3人一緒に国内で調整するとなったからには、僕自身もふたりを引っ張らなければいけないというプレッシャーもあったし、厳しいことを言わなくてはいけない場面もあった。これで結果が出なかったらどうしようという思いもありましたが、逆に最後は彼らに助けられたレースだったなと思います。騎士の場合は初出場だから、当然出場するだけでも嬉しかったと思います。4人でメダルを狙うと言ったからには、練習で苦しい時があっても踏ん張らなくてはいけない。そういうことをしっかりやってくれたからこそ、この結果があるんだと思います」

 こう話す松田は「でも結局、最後まであいつらは『丈志さんを手ぶらでは帰せない』とは言ってくれませんでした」と笑うが、江原はリオに入ってからはいつも、「ゴールド、ゴールド」と言いながら金メダルを意識して、飛び込む練習をしていたという。

 平井コーチは「ここまでに獲った4個のメダルは、みんな金を狙いに行って獲ったメダルです。今回のフリーリレーの銅メダルは52年ぶりのメダルですが、そういう意識でやったのが実ってくれた結果。だから次の東京では、しっかりと金メダル狙いができるようになると思います」と話す。

 そして、このリオが最後の五輪になるだろう松田はこう話す。

「前の3人が泳いでいる間にも、自分の中ではけっこう葛藤がありましたね。自分がどれだけのパフォーマンスを発揮できるのかというのもあったし、展開的に前半から行くのか後半で勝負するのかとか。プレッシャーが襲いかかってきた瞬間もありました。ただ終わってみれば、僕があと1秒くらい速く泳げば銀もあったので、その意味では悔しい思いもあります。おそらくこれが五輪の最後のレースになると思うけれど、『最後まで100%満足できる泳ぎはさせてもらえなかったな。でもそれが水泳なのかな?』と思いました」

 そんな松田が最後に手にしたのは、またしても銅メダルで計3つ目。それでも「これが自分色なのかもしれない」と北京五輪のときの言葉を引用して、この結果をかみ締めた。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi