落語家・三遊亭春馬さんによる「こんなにも落語が仏教的なわけがない!?」は、早くも人気講座の一つだ(撮影/写真部・岸本絢)

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 静かで、荘厳で、厳粛で……多くの人が持つお寺のイメージだろう。

 宗教的な施設だからそういう側面が必要なのも当然だが、もっと気軽に来てほしい。日本を代表する名刹が、新たな挑戦を始めた。

 東京・銀座を南北に貫く中央通りの京橋寄り、銀座2丁目に5月、築地本願寺が運営するサテライトテンプル「GINZAサロン」がオープンした。

 場所は、1階にジュエリーショップが入るビルの5階。三越やルイ・ヴィトンなどの有名店が立ち並ぶ、銀座らしい通りだ。床はフローリングとカーペットで約180平方メートル。中央通り側が広い窓になっていて、眼下にきらびやかな街が見下ろせる。ちょっと気分がアガる風景だ。

●勤め人にも来てほしい

 オフィスやキャンパスではよく聞くが、「サテライト」のテンプルとは何をする場所なのか。

 築地本願寺法務参拝部主任の石川勝徳さんに話をうかがった。

「現代社会の多くの人にとって、お寺は日常生活と関係がないものになってしまっています。しかし仏様(ほとけさま)の教えは、混迷する現代社会をどのように生き抜くか、たいへん役に立つものであり、会社勤めをしている忙しい人にも仏教の教えに触れてほしいという思いから、アクセスしやすい銀座に、サテライトテンプルを開設しました」

 GINZAサロンの活動の柱は、「よろず僧談」と「KOKOROアカデミー」の二つ。「僧談」は水・木曜日に4件ずつ、予約制で僧侶がさまざまな相談を聞いてくれる。

 KOKOROアカデミーでは、仏教をテーマにした講座が目につく。といっても、「英語から考えるブッダの教え」や、落語と仏教の関係を説くものなど、現代的な切り口だ。ほかにも、アンガーマネジメントや男性向けのヨガ教室など、ビジネスパーソンが気になるようなテーマが並んでいる。受講料は8月まで無料の予定だ。

「MBAビジネスマン僧侶による、ビジネスシーンでのピンチに役立つ仏教的思考」は、築地本願寺宗務長の安永雄玄さん自らが講師となって登壇。自身の体験をまじえた話が好評だ。

●再び気軽に集える所に

「多くの人が抱えている悩みに関係するものを講座の内容に、という私たちの考えに共感してくださる講師の方々とつくっていきたいのです」(石川さん)

「アンガーマネジメント入門講座」を担当するのはキャリアコンサルタントの朝生容子さん。「サテライトテンプルはお寺のほうから私たちに歩み寄ってきてくれるようでうれしかった」と、講座を依頼されたときの気持ちを話す。

「講座にはビジネスパーソンから主婦の方まで、多様な方が参加されています。私自身、お坊様が登壇する講座を受けましたが、『怒り』のとらえ方には仏教との共通点があると思います。私自身も、仏教を深く学んでいきたいと思うようになりました」(朝生さん)

 今のところ、KOKOROアカデミーの参加者はやや女性が多いが、30〜40代を中心に、幅広い人が参加しているという。

「昔の人も、お寺に行く理由は信仰心ばかりではなかったと思います。盆踊りや縁日、文化的な好奇心から、お寺に来てもらってもいい」(石川さん)

 そういえば「枕草子」にも、美声のお坊さんの法話に関する段があったはず。「寺」だからと構えずに、銀座に出かけた帰りに「テンプル」へ、ぐらいの気持ちで寄ってみてはいかが。(ライター・矢内裕子)

AERA 2016年8月15日号