先日、総合科学の専門誌「Scientific Reports」に「恐竜の化石から腫瘍が見つかった」との報告が掲載された。

 腫瘍に罹患していたとみられる恐竜は「テルマトサウルス・トランスシルヴァニカス」。

 中生代の白亜紀後期(1億〜6600万年前)に生息した「ハドロサウルス科」に属する植物食恐竜で、日本ではカモノハシ恐竜としても知られている。

 検査対象は、20世紀にルーマニア・トランシルバニア地方の「恐竜の谷」で発見された下顎の化石。表面的に骨の変形が認められていたが、今回、マイクロCT検査で作製された3D画像を使った確定診断が行われたのだ。

 その結果、「この恐竜は、エナメル上皮腫を患っていた」という診断が下された。

 エナメル上皮腫は顎の骨の中に発生する良性の腫瘍で、もちろん、ヒトも罹患する。生命に影響はないが、腫瘍の周りの骨の表面が紙のように薄くなり、ちょっと指で押してもペコっとくぼむ。奥歯付近に発生するケースが多く、噛む行為に影響がでてくる。

 植物食恐竜の場合、一日中硬い草木をモグモグする必要があったと推測され、顎の骨の腫瘍は「患者(恐竜)」の食行動にも少なからず影響しただろう。この恐竜も思うように栄養を摂れず、弱ったところを肉食恐竜に襲われたのかもしれない。

 「腫瘍」「がん」というとなんとなくヒトの専売特許のように思うが、ほかの哺乳類どころか、爬虫類や魚類も腫瘍を患う。それも、良性の腫瘍ではなく、周りの組織に浸潤し、他の臓器に転移する「悪性」腫瘍=がんを発症して死に至ることもある。

 一説によれば、脊椎動物は進化の過程で「がん化」という宿命を背負った。生体組織の複雑さが増すほど、細胞の増殖時にコピーミスやエラーが増え、がん化リスクが増大するというのだ。

 ちなみに無脊椎動物の昆虫や貝類、植物でも腫瘍の発生は認められるが、がん化するかは定かではない。果たして線引きはどこなのか。夏休みの自由研究として調べてみると面白いだろう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)