『トヨタの失敗学 「ミス」を「成果」に変える仕事術』(OJTソリューションズ/KADOKAWA)

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「失敗は成功の母」――失敗してもその原因を調べ、改善できれば成功に近づくことができるということのたとえ。理屈はわかるが、実際には「失敗=悪」が世間の常識で、失敗はなるべく避けたいもの。

 正直に言って、仕事で失敗はしたくない。なぜなら上司に叱られるし、まわりには迷惑がかかるし、責任をとらされるから。だからこそ、失敗しないよう無難に作業を進め、もし失敗したらバレないように隠し、どうにかごまかそうと考えてしまいがちなのが人の性というものだろう。

 失敗を避け、失敗から目をそらすことは、結果的に同じような失敗を繰り返す原因になる。そのうえ、新しいことや困難なことに挑戦しようという意思も薄れさせる。いずれにせよ、「失敗=悪」の認識では損ばかり……。

 では「失敗」を「成功の母」として素直に受け入れるにはどうすればよいのだろうか。本書『トヨタの失敗学 「ミス」を「成果」に変える仕事術』(OJTソリューションズ/KADOKAWA)は、押しも押されもしない大企業・トヨタ自動車で実践されている、失敗を活かすメソッドを、40項目収録。これらは自動車業界に限らず、すべての業種の会社組織に少なからず当てはまるものばかりだ。

 以下にその一例を紹介しよう。

責任ではなく、対策をとれ――トヨタでは、仕事のミスで責任をとって降格されることはない(飲酒運転など就業規則違反は除く)。もしミスが起これば、人を責めずに、しくみを見直し対策を練る。

よその失敗を「自分の失敗」と考える――社内外を問わず、どこかで問題が起きれば、自分たちにも同様のことが起こると考え、未然に防ぐ努力をする。そのため、トヨタでは自部署の改善を他の部署に伝えることが習慣化されているという。

「答え」は教えない――トヨタの上司は、問題が発生しても部下に答えをそのまま教えることはなく、自分たちの頭で考えさせる。言ったとおりにやらせるだけでは、同じような失敗を繰り返してしまうからだ。

 このようにトヨタの現場では、ミスやトラブルを「改善の機会」ととらえている。本書の冒頭にあるとおり、『失敗こそが成功につながる「宝の山」なのだ』。この認識を社員全員で共有すること――そういう職場風土を築くためのノウハウが、本書には収められている。

「できませんでした」と報告しても叱られることはありませんが、「これでチャレンジをやめたい」と言うと厳しく叱られます。

 これは、本書の「おわりに」の章にある言葉だ。単に失敗を許し、甘やかすのではなく、あきらめずに失敗から学ぶことをひたむきに繰り返す。トヨタの上司は、部下にチャレンジをやめさせない工夫をする。これはまさに、わが子の成長を願う母親の、厳しさとやさしさではないか。

 ちなみに、本書の著者・OJT(On the Job Trainingの略)ソリューションズとは、トヨタ在籍40年以上のベテラン技術者がトレーナーとなり、人材育成や現場づくり、儲かる会社づくりを支援するコンサルティング会社。トヨタの持つノウハウを駆使した仕事術に関する、本書を含めたシリーズは累計70万部を突破している(2016年8月現在)。もし本書で紹介されているノウハウに興味を持ち、考え方に共感したなら、過去のシリーズもチェックしてみてはどうだろうか。 

文=上原純(Office Ti+)