内村航平、生涯最高の戦い!すべてを出し切る限界の死闘で見せた本当の強さ、王者の着地、永遠に残るヒーローの記憶。
ベスト・オブ・コーヘイ・ウチムラ!

震えるような戦い。この日、同じ時間帯に日本選手団は大活躍をしていました。柔道では男女2階級でアベック金。ラグビーでは強豪フランスを撃破し、ベスト4への進出を決めていました。しかし、それを超えた。内村航平、体操男子個人総合金メダル。これは内村さんが憧れつづけた手に汗握る戦い。痺れるような戦い。間違いなく、内村さんの生涯ベストバウトです!

歴史上最高の体操選手は、強すぎる王者でもありました。五輪を含め個人総合世界大会7連覇中。しかも、ただ勝つのではなく圧倒的に勝ってきた。戦う前から決着がつき、ひとつやふたつコケても影響がないというような、言葉を悪く言えば「ヌルい」戦いでした。日本時間の早朝4時から始まった個人総合を、「内村が勝つだろう」と思って寝た人も多いでしょう。

確かに内村さんは勝ちました。

しかし、この戦いはいつもと違う。

ライバルと目されたのはウクライナのベルニャエフ。技の難度を示すDスコアの合計では内村さんを2点ほど上回る、高難度構成の持ち主です。近年の世界選手権では内村さんを脅かす存在として注目を集めていましたが、6種目を揃えることがなかなかできず、結果としては後塵を拝するような形になっていました。

そこに変化の兆しが見えたのは今大会の予選。ベルニャエフは6種目の合計で内村さんを上回ったのです。6種目を通した状況で内村さんが誰かの下になるのはいつ以来でしょう。ロンドン五輪の予選以来でしょうか。もちろん、今大会の予選では内村さんに鉄棒の落下がありました。しかし、その減点1.000を加えてもなお、ベルニャエフのほうが上になる。つまり、「普通にやっても普通に負けた」という結果です。

内村さんにはいくつもの苦しい要因があります。予選、さらに団体決勝と6種目12演技をこなしてきた疲労。団体決勝という、自身がすべてを懸けて望んだメダルを獲った反動も心配されます。そこで出し切ってしまったかもしれない不安が。一方で、ベルニャエフはウクライナ自体が団体戦で弱いということもあって、団体戦は2種目のみの出場と「捨て試合」に。休養十分でココにやってきています。

「内村さんが、負けるかもしれない」

心の片隅にその恐れを抱いて見守る戦い。寝ていられるはずもありません。

演技順は、常に内村さんが先、ベルニャエフがあと。ローテーションはゆかから始まり、最後に鉄棒がくる流れです。ベルニャエフはあん馬・つり輪・平行棒では内村さんを上回るチカラがあり、ゆかと鉄棒では内村さんがリードする格好。先行して、途中を凌ぎ、最後にまくるという展開が理想です。

まずゆかでは内村さんが本来のチカラを見せ、最後のタンブリングも着地をピタリ。予定通りに大きくリードしての滑り出し。しかし、つづく2種目ではベルニャエフが強い。難度・出来栄えとも申し分なく、非常に質の高い演技を見せ、内村さんを逆転、さらに突き放してきます。内村さんが自身の完成形と語るリ・シャオペンを繰り出した跳馬でも、内村さんが着地まで含めてほぼ完璧に決めたにも関わらず、詰めた差はわずか0.066点。

5種目目平行棒はベルニャエフが世界一のチカラを持つ種目。内村さんにはここで点差を詰める方法は残念ながらありません。とにかくミスをせず、少しでも点差が開くことを防ぐのみの「防戦」です。ここで内村さんは美しい演技で15.600点。着地で一歩大きく跳ねますが、内村さんの中では十分にやり切った演技です。ベルニャエフはじょじょに高まる金へのプレッシャーの中で、16.100点という極めて高い点を出します。両者の差は0.901点。

内村さんの鉄棒の演技はDスコア7.100点。団体決勝では取り損ねたアドラー1回ひねりから伸身コスミックの組み合わせ加点のぶんも本来どおり取る構成ですが、鉄棒では完璧にやり切ってもEスコアを9.000点に届かせるのは難しく、目指せる限界が15点台の後半というあたり。一方でベルニャエフはDスコア6.500点と難度的にはやや劣ります。完璧にやり切ったとしても、15点を超えるのがやっとというあたり。内村さんが限界まで出し切り、ベルニャエフに小さなミスがあれば届くかもしれない。ギリギリのところ。

ここで内村さんは、あの締まりのない団体決勝最終演技のやり直しをするかのように、完璧な演技を見せます。本人曰く「すべてを出し切った」演技。難度の高い手放し技の連続と、美しい車輪の姿勢、そして最後の着地はマットに吸い付くようにピタリ。王者の着地で、15.800点。Eスコア8.700点という、想定された範囲での限界と言える得点を出した内村さんは、腰に手をやりながらライバルの演技を待ちます。

これでベルニャエフは14.899点が必要となりました。十分にプレッシャーがかかる点数です。緊張感は見られるものの、ミスなく演技を進めていくベルニャエフ。しかし、最後の着地で一歩動いてしまった。はたしてどうか。この一歩がどうか。点数が出るまでどうなるかわからない超僅差の戦いにジャッジがくだした決着は、ベルニャエフ14.800点。Dスコア6.500点、Eスコア8.300点という高い評価。しかし、内村さんには0.99点及ばなかった。

↓死闘、まさに死闘を乗り越えて、内村航平が金!大逆転での金!


内村さん、素晴らしい戦いだったよ!

強かった!美しかった!カッコよかった!

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点差から言えば、ベルニャエフの最後の着地が決まっていれば、減点分が加わって、金はベルニャエフのものでした。もうこれは、勝手な解釈ですが、「コーヘイ・ウチムラを超える資格があるのか?」という最後の問いに対して、一歩動いてしまった、そういう決着なのかなとしか思えません。コーヘイ・ウチムラが見せた完璧な着地との対比が、そのままメダルの色をわけたのかなと。

この戦い、内村さんはチカラを出し切りました。こうなったのはベルニャエフが強かったからです。ミスとミスの泥沼ではなく、本当に高い次元での競り合いだった。正直、最後の演技を見るとき、僕はワクワクしました。内村さんが敗色濃厚であることを理解したうえで、たまらなくワクワクしていました。

内村航平が、自分の限界にチャレンジする演技がやっと見られるのだと。ここで限界を出すことができれば、わずかに勝利のチャンスがある、そんなシチュエーションがやっと巡ってきたのだと。あの王者の着地。これがヒーローなんだと思った。もうベルニャエフの失敗を望む気持ちはなく、勝っても負けてもいいと思った。

内村航平の全力が引き出された、そのことがただただ嬉しかった。

ベルニャエフ選手には心から感謝をしたい。あなたのような強い選手がいなければ、この戦いは生まれなかった。内村航平の全力を引き出してくれて本当にありがとう。いつか見たいと思っていた、全身全霊で戦い、ひとつのミスも許されないプレッシャーを制し、「美しい体操」を決める内村さんが、あなたのおかげで見られた。体操史に残る戦いでした。

そして、もうひとつ。よくこの世界を目指してくれた。

6種目すべてやらねば体操選手ではない。その理想のもと、内村航平は複数の種目で種目別決勝に出るチカラを持ちつつ、なおかつ全種目を高いレベルで行なうことができるという理想の体操選手を体現してきました。しかし、その高い理想と反して、種目別のスペシャリストのような一芸選手が増えた時代もあり、「誰もついてこない」という風潮もあった。そもそもコーヘイ・ウチムラを倒すことを諦めてるんじゃないのか?と思うようなことさえあった。

しかし、オレグ・ベルニャエフという新しい時代の体操選手が出てきた。それに合わせるように、完成度は低いながらも内村さんの領域に届きそうな選手が出始めた。それでこそ、意味がある。内村さんが単なる異端の天才で終わるのではなく、内村さんの築いた世界にみなが集ってこそ、意味がある。

僕らはもう、内村航平が負けることを覚悟する時代に入ったのです。ただ、それはとても素晴らしいことなのです。内村さんが押し上げた理想が、体操界の当たり前となり、体操という競技がさらに発展したことの証なのですから。内村さんがまだ頂点のチカラを残しているうちに、こんな戦いが見られてよかった。

これが内村航平の生涯ベストバウト。

あの王者の着地こそが、アテネを超える名場面となる。

素晴らしい戦いに、ただただ、感謝です!

↓放熱する内村さんが語る「幸せだった」という感想!

内村さん:「オレグがきてたのは場内アナウンスでわかってたので」
内村さん:「最後の鉄棒次第だなってのはわかってたんで」
内村さん:「最後の鉄棒でようやく自分の演技が個人総合でできて」
内村さん:「これで負けても、僕は悔いはないっていう感じで」
内村さん:「オレグの鉄棒を待ってました」
内村さん:「いつもの練習では絶対にミスがなかったので」
内村さん:「その練習だけを信じて」
内村さん:「着地は絶対に決めてやるっていう気持ちで」
内村さん:「いつもどおりを心掛けてやりました」
内村さん:「(着地は)自分の中ではあまり感覚はよくなかったんですけど」
内村さん:「運が最後は味方してくれた感じがありますね」
内村さん:「何でしょうね…疲れ切りました」
内村さん:「出し切りました」
内村さん:「もう何も出ないとこまで出し切った」
内村さん:「出し切って獲れたので」
内村さん:「嬉しいより、幸せですね」
内村さん:「これだけいい演技で、一番いい色のメダルが獲れたので」
内村さん:「本当に一番幸せものだと思います」

ギリギリまで追いつめられて、奇跡の逆転勝利をするのがヒーロー!

ヒーローの戦いを見られて、僕らも幸せです!

アテネも、藤巻駿も、超えたよ!

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飛び抜けて凄いだけでなく、本当に強いヒーロー、それが内村航平!