「あの人を手ぶらでは帰せない」という、自分の限界を超えるための実用的(※2大会連続メダル獲得に成功中)心構えの巻。
手ぶらの無限連鎖講!

人は、誰かのために強くなる。少年漫画のカッコいいセリフみたいなのを地で行く男たちがいた。競泳男子4×200メートルリレー、日本チーム。ただ強いだけでなく「今日特別に強い」を実践しつづける驚異の調整力の持ち主たちが、ひとつまた大きな仕事をやってのけました。

52年ぶり、1964年東京大会以来のメダル獲得。

その原動力となったのは、今大会このリレー一本で参加している、ベテラン松田丈志の存在だったと言います。チームの合言葉は「松田さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」。前回ロンドン大会で、松田さんが「(北島)康介さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」と鼓舞してメドレーリレーのメダルを獲得したフレーズの再起用です。

想いをつなぐリレーは各選手のチカラを最大限に引き出しました。第1泳者・萩野公介は前半からガンガン飛ばし、自身の持つ日本記録に迫る好タイム。つづく第2泳者・江原“ナイト”騎士は予選より大きくタイムをあげてメダルを争うライバルを大きくリードして、全体2位で第3泳者へ。さらに第3泳者・小堀勇氣は自身もまたこのレース一本にかけ、予選から2秒ほどあげてくる会心の泳ぎ。そして、全体2位でバトンを松田さんにつなぎ、あとを託します。

あぁ、この感じは北京五輪の陸上男子4×100メートルリレーだ。チカラを保ち、長く踏みとどまったベテランにだけ与えられる、「自分を見て大きくなった若者との合流」というごほうびだ。敬意と感謝が「この人のために」という意識を生み、全力以上のチカラを引き出してしまう現象だ。

松田さんは、実績で言えば200メートルバタフライを得意とする選手。しかし、200バタでは世界に挑むだけのチカラを選考会で出せませんでした。マイケル・フェルプスと鎬を削った選手にも衰えというものはあります。五輪をあきらめてしまっても不思議はないところです。すでにあれだけの栄光を得たあとなのですから。

しかし、勝つために自分を変えていくしぶとさこそが、松田さんの持ち味だった。ロンドン大会のメドレーリレーでは、手薄だった自由形とバタフライの穴を埋めるため、本職ではない100メートルバタフライのスピード練習を詰み、メンバーに加わりました。そして、今回はバタフライではなく、かつて日本記録も出した200メートル自由形のチカラを活かせるリレーで、「そのほうがチャンスがあるから」と再び頂点に挑んだ。

ビニールシートで覆われた決して快適とは言えないプールから世界の頂点まで迫ったタフネスが、再びここに松田さんを連れてきた。しぶとくしぶとく踏みとどまりつづけたからこそ、予想外とも言える舞台での最後のチャンスを得られた。後輩が作ったカラダひとつぶんほどの差を守り切れば、52年ぶりのメダルに届くというチャンスを!

↓松田さんはイギリスにはかわされるものの、最後まで失速することなく3位でフィニッシュ!


「来い!」という後輩たちの声援!

それに応える最後の力泳!

つながる心で、日本が、銅メダル!

つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた。 [ 松田丈志 ]

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感想(3件)



自分の頑張りが種を蒔き、自分の頑張りがあとにつづく者の道標になってきた。そこに感謝があるからこそ、「手ぶらでは返せない」という気持ちも生まれる。たくさんのものを先に受け取ってきたから、手ぶらでは帰せないという気持ちになる。そうやって時代がつながり、経験がつながっていく。

松田さんが語った「このメダルをきっかけに若い選手がさらに日本の自由形を強くしてくれると願っている」という言葉。五輪は最後と公言している松田さんですが、水泳人生をかけての言葉のようにも聞こえるこの言葉・このメダルが、まさに松田さんの置き土産。「松田さんを手ぶらで帰せない」という想いで獲った4つのメダル。松田さんがその1つだけを持ち帰り、3つを若者たちに残した。土産をもらったら、半返しを欠かさない日本人の美徳のように、互いに何かを贈り合った。

この気持ち、きっとほかの競技でも活かせるもの。自分のためなら諦めてしまうことも、誰かのためなら頑張れるのは、みんな何となく感じていることでしょう。それが一緒にやる仲間のためであったなら、お互いの気持ちが反響して、ものすごい効果になるのではないでしょうか。プレイヤーだけでなく、コーチ陣にもこの事例、大いに参考にしてもらいたい。自分たちのグループには「この人のために」と思われるような人物がいるか。もしいないなら、それを加えることもひとつの手として。

競泳はほとんどが個人種目ではありますが、チームとして行動しています。選手たちの多くは仲間のレースの応援に集まり、日の丸を振って声援を送ります。その時間、理屈で言うなら個人調整をしてもいいわけですが、今大会も大集団で応援をしています。松田さんも、日の丸をふって日々スタンドから応援をしていました。競泳がただ強いだけでなく、「今日特別に強い」ということを毎回の五輪のたびに見せてくれることを考えたとき、こうしたチーム力もまた強さの秘密なんだろうと思ってしまうのです。自分ひとりで自分の限界を超えられるなら、たったひとりで戦ってもいいんでしょうが、きっと、そんな簡単なものではないはずですから。

「●●さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」

この気持ちを持てたなら、きっと強くなる。

そう思える相手が仲間にいたら、きっと強くなる。

サッカー男子よ!ダメ元で「藤春さんを手ぶらでは帰せない」の気持ちを持て!