息子のイタズラ癖で知った団地のあたたかさ【シングルマザー、家を買う/56章】

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<シングルマザー、家を買う/56章>

 バツイチ、2人の子持ち、仕事はフリーランス……。そんな崖っぷちのシングルマザーが、すべてのシングルマザー&予備軍の役に立つ話や、役に立たない話を綴ります。

◆ベランダから洗濯物を投げる息子

 息子がプロ野球選手のように、どんなものも遠くに、しかもいいラインで投げられるようになったのは3歳の頃。その当時投げていたのはぬいぐるみやおしゃぶりなどかわいらしいものだった。

 その後4歳になってオムツを投げるようになったのは、以前の記事にも書いた通り。息子は人より感覚が鈍いため、オムツトレーニングがなかなか進まない。しかし、オムツに用を足すとどうやら重いようで、脱ぎだしては投げようとするのだ。外では絶対に脱がないのに、家ではものすごい速さで脱ぎ、ベランダから階下にものすごくいいピッチングで投げるのだ。

 以前、その様子をこの連載でも紹介したが、それは今も直らず、もはや我が家から干したばかりの洗濯物やバスタオル、そしてオムツが団地の裏の誰も入らない芝生に落ちることに、私も娘も若干慣れ始めていた。

 息子は洗濯物をベランダから投げると、いいことをしたかのように私のそばに来て、洋服をちょこんと引っ張り、ニコニコと微笑む。そしてベランダを指さすのだ。

◆団地は平和なコミュニティ

 それに激高し続けるも全く効果がなく、もはや息子が手の届かない場所に洗濯物を干すか、投げた直後に日課のように拾いに行くことしか選択権がなかった。たまに、拾いに行くまでに時間が空くと、誰かが落ちたものを集合ポストのところに置いてくれている。きっと、誰かが私の家のものだとわかって、そっと置いてくれているのだろう。こんなとき、この団地は本当に平和で温かいコミュニティだなと思う。

 そんなある日、洗濯して干していたバスタオルが例のごとく息子によって投げられ、2階のベランダに引っかかった。2階に住むおじいちゃんはいつピンポンしても出てきてくれない。悪い人ではないのだが、自分のペースがあるのだろう。そこで私は長めの棒を拾い、タオルを引っかけて落そうと、1階のベランダ前の芝生からバスタオルを突っついていると、1階に住むおじいちゃんがベランダに出てきた。

◆おじいちゃんの“なんでも釣れる釣り竿”

 おじいちゃんは「あ〜、また投げちゃったの!」と言うと、私に長い釣り竿を貸してくれた。

「この釣り竿はなんでも釣れるんだ。昔、俺はこれでいろんな魚を釣ったんだぞ。その魚拓を見るか? あ、どこにあったかな〜」とまた部屋に入ること10分、立派な魚拓を見せてくれた。

「わぁ、すごいですね〜! これで釣ったんですか!」

 私は素直に感動していると、おじいちゃんはその釣竿を私によこしてくれた。

「だから、息子くんが投げた洗濯物も、全部これで釣れるはずだよ」

 おじいちゃん……優しい! 私は遠慮せず釣り竿を借りて、2階にひっかかったバスタオルをピックアップすることに成功した。

 息子はそれを見て「おおお!」と感動しパチパチと手を叩くと、おじいちゃんは「な! 本当になんでも釣れるだろう!」と言ってくれたのだ。

◆拾ってくれていたのはおじいちゃんだった!

「本当にありがとうございます!」と頭を下げて釣り竿を返そうとすると、おじいちゃんは私にこう告げた。

「もう、俺は釣りに行くことはないから、これはあげるよ。いつも家の前に引っかかってたあんたんちの洗濯ものくらいしか引っかけてなかったから、惜しい気持ちもないし!」

 そう、このおじいちゃんこそが、いつも1階のベランダの前に落ちていた洗濯ものを拾っては届けてくれていた張本人だったのだ。