【開所式でテープカットする関係者】

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 東日本大震災と福島第1原発事故から5年余りがすぎたが、復興は道半ば。福島を最近訪れたあるジャーナリストは「5年を区切りに復興の財源はぐんと少なくなるが、やることはまだまだ山ほどある。これからの5年、震災から10年に向かって、どんなビジョンを描き取り組むのかが我々に問われている」と問題提起する。人々は「復興10年へのビジョン」を描くより、4年後の東京オリンピックに思いをはせるのに忙しいのかもしれない。

 そんな中、私大で数少ない「原子力安全工学科」を持つ東京都市大(東京都世田谷区、三木千壽学長)が、福島第1原発事故の被災地、福島県「浜通り地域」の支援に乗り出す。廃炉作業に不可欠のロボット工学や放射線計測、プラズマ科学、環境再生エネルギーなど幅広い分野の専門知識を地元企業などに提供していくという。

 浜通り地域は、福島第1原発近隣の13市町村(いわき市、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、相馬市、南相馬市、新地町、飯舘村)を指す。東日本大震災の津波や原発事故で大きな被害を受けた。津波被害が大きかったいわき市小名浜などの臨海地域では、港湾や魚市場などの公的施設はほぼ以前の姿に戻ったが、地場の小規模な事業所の本格的な復興はまだまだ課題を抱える。

 東京都市大の今回の取り組みは、経済産業省が進める被災地復興支援事業の一環で、地元の公益社団法人「いわき産学官ネットワーク協会」(猪狩正明会長)との共同事業。いわき駅前の大型商業施設「LATOV」に活動拠点の「東京都市大産学連携いわきサテライトセンター」(いわき市)を設け、原子力ほか様々な分野の研究者が月1回程度出向き、地元企業らの相談に応じる。全学挙げて「技術相談」「試験・分析・調査」「特許情報の紹介」などの要望にきめ細かく対応していくという。

 同サテライトセンターで8月3日に開かれた開所式後の「技術連携フォーラム2016」には地元の企業から70人が出席。東京都市大からも電子デバイス研究の専門家である丸泉琢也副学長と高木直行原子力安全工学科教授ら5人の研究者が駆けつけた。

 「企業と大学の連携による新しい価値づくり・ものづくり」と題して講演した丸泉副学長は「この事業の主役は、地域の企業の皆さん」と呼びかけた上で「私たちの大学は、理工系の単科大学から領域を広げ、現在は環境、情報、都市生活、人間科学など6つの学部、18の学科を持っている」と説明。「復興に苦闘する皆さんが抱える課題や難問に、大学の総力を挙げて応えていきたい」と意気込みを示した。

 震災で自宅と工場が被災し、再建を目指している赤津和三さん=いわき市植田町=は熱心にメモを取りながら講演を聴いていた。「整形外科の手術などで骨をしばる特殊なケーブルを製造している。これからも独自の製品を開発して生き残るために、大学の先生たちのさまざまな知識、最先端の技術を借りて、事業を再び軌道に乗せたい」とサテライトセンターに期待を寄せる。

◆サテライトセンターに派遣される研究者(12月以降は調整中)◆
8月26日「放射化学」(原子力研究所 岡田往子准教授)▽9月30日「プラズマ科学」(医用工学科 平田孝道教授)▽10月28日「知能ロボティクス」(情報科学科 星義克講師)▽11月25日「環境科学」(エネルギー化学科 江場宏美准教授)。

東京都市大原子力安全工学科の教授陣を講師とする、廃炉産業の担い手育成を目指したいわきものづくり塾「廃炉コース」も、いわき産学官ネットワーク協会の主催で開かれる。日程は次の通り。10月14日「原子力発電から廃炉について」(高木直行教授)▽11月24日「廃炉の現場における放射線計測関係」(河原林順教授)▽12月15日「環境回復のための除染、汚水処理関係」(松浦治明教授)▽2017年3月3日施設見学「東京都市大学 原子力研究所」(神奈川県川崎市麻生区王禅寺)。

問い合わせは東京都市大産学連携いわきサテライト(いわき産業創造館中小企業支援室内)
メールアドレス shien@iwaki-sangakukan.com

■東京都市大原子力研究所■
東京都市大は、前身の武蔵工業大時代の1959年、原子炉設置の許可を受け神奈川県川崎市麻生区王禅寺に「原子力研究所」を設立。1976年には全国の国公私立大学の共同利用施設になり、医療用照射室を完成させ脳腫瘍患者への中性子を使った治療の実施などで、数々の成果を挙げてきた。しかし、1989年に原子炉タンクからの冷却水漏れで原子炉の運転を停止。2003年廃炉を決定し、2006年に使用済み燃料を米国へ返還した。現在は、「原子炉シュミレーター」の開発や、原子炉周辺の残存設備の廃止に関する教育、研究を行っている。長年、研究に取り組んできた専門スタッフを活用し2,008年、工学部に「原子力安全工学科」を新設。これまで約200人の卒業生を社会に送り出している。大学院のコースも早稲田大と共同で開設している。