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●公正取引委員会の報告書の内容は?
公正取引委員会は8月2日、「携帯電話市場における競争政策上の課題について」という報告書を公開した。その内容を見ると、キャリアだけでなく端末メーカー強く意識した課題点もいくつか挙げられているようだ。この報告書で最も大きな影響を受けるのは、一体誰なのだろうか。

○一見するとタスクフォースに沿った報告書だが……

昨年末に総務省のICT安心・安全研究会が実施した「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の結果を受け、今年に入ってから行政による、携帯電話市場の商習慣見直しが急速に進められている。

タスクフォースの結果を受けて4月には「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」の適用を開始。それを基に総務省が、これまで一般的だった、"実質0円"など携帯電話端末を大幅に割り引く大手キャリアの販売手法に対して厳しい指導を実施するようになったことから、キャリアの実質0円販売が大幅に減少することとなった。

だがタスクフォースの結果を受け、行政が携帯電話業界の商習慣にメスを入れる動きはそれだけにとどまらなかった。総務省の次に動きを見せたのが公正取引委員会である。8月2日、公正取引委員会は「携帯電話市場における競争政策上の課題について」という報告書を公表し、携帯電話市場の課題や問題点などについて指摘したのである。

この報告書は、MVNOの新規参入促進の観点を中心として、携帯電話市場の取引慣行について関係事業者などからヒアリングをし、その上で総務省の取り組みを踏まえながら、競争政策上の課題について検討したものとされている。料金低廉化やサービスの多様化を実現するためにはMVNOの競争力向上が必要であり、そのためには従来のどのような販売慣行に問題があるのか、何を是正するべきかを指摘した内容となっている。

中でも多くの指摘がなされているのは「通信役務市場における課題」、つまり携帯電話キャリアの商習慣に関する問題点である。ここでは通信契約と端末販売の分離、SIMロック、期間拘束・自動更新付契約(いわゆる「2年縛り」)、キャリアの通信網等(HLR/HSS)に対するアクセスなどが、課題として指摘がなされている。

その内容を見ると、多くは総務省のガイドラインなどで既に指摘がなされ、是正が進められたものが多い。確かに報告書の内容を見ると、「SIMロックの設定をしないことが望ましい」など、総務省のガイドラインなどより厳しい指摘がなされてはいる。だがここ1、2年のうちに、SIMロック解除の義務化や、実質0円販売の事実上禁止、そして2年縛り改善のプラン提供など、既に総務省要請によってキャリア側が多くの対応策を実施してきている。現在はその取り組みの推移を見守る段階であり、これらの点で公正取引委員会がすぐ、何らかのアクションを起こすとは考えにくい。

●総務省より踏み込んだ部分とは
○中古販売の流通で端末メーカーにも踏み込む

一方で、今回の報告書を見ると、総務省のガイドラインなどでは指摘されていない所に踏み込んでいる部分も見られる。その中の1つとして挙げられるのが「端末市場における課題」の項目にある、「中古販売の流通促進」という部分である。

報告書の該当部分を見ると、「中古スマートフォン端末の流通数は、平成26年度で227万台にとどまっており、新品スマートフォン端末の出荷台数に対する中古スマートフォン端末の販売実績は僅か8%程度となっている」と、中古端末の流通量が少なく販売が伸びていないことを指摘。その上で、

・端末メーカーやキャリアが不当に高い値段で中古端末を購入すること
・端末メーカーがキャリアに対し、下取りした端末を国内で再流通させることを禁止するなど、流通を制限すること
・キャリアや端末メーカーが、下取りした端末を第三者に販売する際、第三者に対し国内市場での販売を制限すること

などが、独占禁止法上問題になるとしている。つまりキャリアだけでなく端末メーカーに対しても、公正取引委員会は問題視する部分があると見ているわけだ。

こうした指摘の背景にあるのは、下取りされる中古スマートフォンの数に対し、国内で流通する中古スマートフォンの数が少ないことにあるようだ。報告書を見ると「下取りによりMNO(キャリア)が取得した中古端末は、その一部が修理等の際の代替機として利用されるほか、大部分は日本国外で販売されるなど、国内の中古端末市場に流通することはほとんどないとの指摘がある」との記述がなされており、キャリアが下取りしたスマートフォンの多くが、海外に販売されていると公正取引委員会側は見ているようだ。

中古端末の国内流通量を抑えることは、中古端末の価格下落を防ぎ、新品の販売価格を維持することにもつながってくる。それだけに、こうしたキャリアの行動の裏には端末メーカーの指示があるのではないかと、公正取引委員会側は推測しているようだ。そこで浮かんでくるのがアップルの存在である。

●アップルが日本への貢献をアピールする理由
○狙いは9月のiPhone商戦に向けた警告か

アップルは日本のスマートフォン市場で5割以上のシェアを占めるなど、iPhoneで絶大な人気を獲得し、事実上"独り勝ち"となっている。しかも7月に発表されたアップルの決算で、世界的にiPhoneの販売数を落とし減少を記録している中、日本市場だけは今期も約23%の伸びを示すなど、今なお突出して販売が伸びている状況だ。

それだけ高いシェアを持つアップルが、もしキャリアの中古端末の国内流通抑制に何らかの形で関連していれば、独占禁止法上大きな問題となってくる。現状、公正取引委員会側がキャリアとアップルの間の契約内容を把握しているわけではないようだが、そうした問題の発生を先んじて警告するべく、報告書ではあえて、キャリアだけでなく端末メーカーに対しても踏み込んだ指摘をしたのではないかと見ることができそうだ。

今回の報告書が打ち出されたタイミングからも、3キャリアに加えアップルへの警告を狙っていることが読み取れる。iPhoneの新機種は例年9月の上旬に発表され、中旬から下旬にかけて発売されることが多く、今年もその可能性が高い。そしてこの時期は、各キャリアとも新iPhoneの販売を拡大するべく"大盤振る舞い"ともいうべきキャンペーン施策を実施することが多い。

それゆえ公正取引委員会は、iPhone商戦でキャリアが販売拡大のため、キャッシュバック増大や下取り価格の大幅な優遇など、新iPhone販売拡大のための施策で販売適正化に向けた動きが逆戻りすることを懸念。新iPhone発表が近づいたタイミングを狙い、報告書を出したと見ることができそうだ。

一方のアップルも、公正取引委員会が報告書を出す8月2日に、「日本におけるAppleの雇用創出」というWebページを公開。アップルによる直接的な雇用だけでなく、アプリによる経済圏の構築による雇用の創出、そして部品メーカーなどサプライヤーとの取引で多くの経済効果と雇用を生んでいることを紹介。iPhoneの販売拡大が、日本で71万5千人もの雇用創出に結びついていると主張している。

これまでアップルが、各国の経済や雇用に関する情報を公開したことはなかった。それだけに、アップルがこのタイミングでそうした情報を公開したというのは、公正取引委員会の動きを強く意識したものと見ることができそうだ。

独占禁止法を運用する公正取引委員会が、キャリアやメーカーに対する明確な姿勢を示したことの影響は決して小さくない。それだけに、今年の新iPhone商戦に、例年通りの大盤振る舞いな施策を実施することは難しくなったといえるだろう。そして今回の報告書を機に、今後キャリアのiPhone販売がどのように変化していくのかも、今後注目していく必要がありそうだ。

(佐野正弘)