親の虐待によって子どもが死亡するという、痛ましい事件が後を絶ちません。

無償の愛で包まれるべき子どもたちが、なぜ死に追いやられてしまうのか――その深層心理について、世間に衝撃を与えた「大阪二児置き去り死事件」をはじめ、さまざまな虐待死事件を綿密な取材で追ったルポライターの杉山春さんに考察していただきました。

●虐待死の加害者になる親は重い成育歴を背負っている

杉山さんによると、子どもを死なせてしまう親は、重い困難を抱えていることが多いとか。

「子どもを死なせてしまうほどの困難を抱えた親の多くは、自身も非常に重い虐待体験を持っています。周囲には、虐待と見えなくても、人を信じにくい、自分の弱みをみせられないといった、内面の動きにつながる体験をしていることが多い。よく『育児中の親の孤立が虐待につながる危険性を持つ』と言われますが、たとえ手を差し伸べてくれる人が周囲にいても、その手を離してしまう。頑張れば乗り越えられるというものでなく、相当に深刻なものです」(杉山さん、以下同)

たとえば2010年、マンションに2人の子どもを放置し死亡させた容疑で逮捕された芽衣さん(杉山さんの著書『ルポ虐待 ― 大阪二児置き去り死事件』の中の仮名)も、幼少期に実母からネグレクトを受け、父親からも十分なケアを受けられなかったと言います。

「芽衣さんのお母さんは精神的に不安定な方で、それゆえ“娘を守る力”が乏しかったのではないかと思います。裁判の当日、『自分は裁判所に出廷できない』と裁判所にFAXを送り、娘のために証言しなかった。おびえる気持ちに負けてしまった。世間は子どもを守れない親、虐待に走る親を責めますが、問題の根は深く、単純に善悪を語るだけでは解決は難しいと思っています」

●“いい親幻想”を作り出すSNSの怖さ

また、“いいママに見られたい”と他人の目を気にしすぎたことも、芽衣さんが追い詰められた一因ではないかと杉山さんは分析します。

「芽衣さんは子どもが生まれた当初は、一生懸命育児をする“いい母親”でした。それゆえ、たった一人での子育てに行き詰っても、他人に預けたり相談したりする事ができずに、放置という手段を取ってしまったのではないかと考えています。他人がどう自分を評価するのかに囚われる生きづらさを、芽衣さんは心で感じていたのではないでしょうか」

その心理は、芽衣さんのSNSの投稿からも読み取ることができるといいます。

「芽衣さんは子どもをマンションの一室に約50日放置している間、派手に遊びまわる様子をSNSに投稿していました。子どもが亡くなっていく一方で、素敵な恋人がいておしゃれをしている自分の姿を見せている。それが、結果的に世間のバッシングを過熱させることになるのですが、そうした投稿からは『社会に求められる自分』を演出したいという願望が感じ取れます」

痛ましい虐待死事件の背景には、一言では語り尽くせない複雑な要因が絡み合っているようです。

なお、全国の児童相談所に寄せられた児童虐待の相談対応件数は、毎年増え続けており、平成26年度は8万8931件と10年前の約2.6倍に膨れ上がっています。そこには、世代間連鎖だけでなく、子どもを抱える母親たちが弱音や本音を吐き出しにくい環境も隠されているのかもしれません。

(構成・文:末吉陽子/やじろべえ)