人生での大きな買い物のひとつが、「住宅購入」ですよね。結婚し、家庭を持ち、子どもが生まれたら誰でも「自分たちだけの城」が欲しくなるもの。

ただ、その購入額が他の買い物と違い、3,000万円、4,000万円と高額なのが特徴。

1,000円、10,000円といった普段の買い物とはケタが違うため、冷静さを失いやすく、失敗して後悔しやすいのも「住宅購入」の特徴です。

さらに、住宅の種類によって失敗の種類も異なります。では、どのような失敗があるのでしょうか?

今回は、マンション購入で失敗してしまうメカニズムについて解説します。これから購入を考えている人はぜひ反面教師にしてください。

■1:人は「いまだけ、ここだけ、あなただけ」に弱いから

まず、よくあるのが「これほどいい物件はありません。いまだけ、お客様にご案内します」という不動産業者の常套句につられて買ってしまうというもの。

「えっ? 住宅って高額な買い物なんだから、そうそう簡単に営業のワナにハマるわけがないでしょう!」と思いがちですが、実は高額だからこそハマってしまうのです。

なぜなら高額な買い物ほど、日常生活では手に入りにくいため、その買い物に対してオトク感や価値を必要以上に求めるからです。

さらに、これに「ご縁」「相性」などが絡むと、人は理性を失い、感情で判断しようとします。

こういった「手に入りにくくなるほど、その機会がより貴重なものに思えてくる」心理を「希少性の原理」といいます。

そして、この希少性のワナは、実はチラシから営業マンのトークに至るまで、あらゆるところに仕掛けられているのです。

いくつかの例をご紹介しましょう。

(1)「完売御礼!」の言葉がやたらと踊っている

「バンバン売れていますよ」という雰囲気を出して、住宅市場が好況であることをチラシの読み手にイメージさせる。結果、「いい物件はすぐになくなってしまうのだ」と、読み手に焦りを感じさせる。

(2)大規模マンションなどの場合、販売時期を1回ではなく「第1期、第2期、第3期」などと複数回に分けて小分け販売をする

もともと150戸あるマンションを50戸ずつ売るので売り切るのは難しくない。完売するごとにチラシに「完売御礼!」と謳うので、読み手は「このマンションは人気物件なのだな」という印象をもつ。

「この物件は人気物件で他にも購入ご希望のお客様がいらっしゃいます。もし、今回の見学で契約していただけたら、他のお客様にはお断りをいたしますが」という具合に「いましかない」「競争者が他にもいる」ことを強調し、見学者を焦らせる。

こういった希少性のワナにハマった結果、焦りで購入し、あとで「住環境が思ったより悪かった」「瑕疵物件だった」などといった事実が発覚して後悔するケースが後を絶ちません。

不動産屋のチラシや営業トークが気になったときほど、「あ、希少性のワナにハマりかけている」と自分の状態を客観視し、その物件そのものや住環境などを冷静に細かくチェックするようにしましょう。

■2:人は「わかりやすいもの」に弱いから

住宅購入を考える際、「新築でなければイヤだ」「中古物件でもリフォーム済みでなければ買いたくない」という人がいます。

実際には、マンションの新築価格は、広告費の他、業者の利益もかなり含まれているため、物件そのものの価値よりもはるかに高い金額が付されています。

そのため、買った瞬間から価値が下落します。売却を考えた場合には必ず損する物件です。

リフォーム済みの中古物件も同じです。リフォーム済みの価格にはリフォーム業者の手数料だけでなく、リフォームを仲介した業者の手数料も上乗せされています。

そのため、実際には、中古物件をそのまま買い、自らリフォームを業者に直接依頼した方がはるかに安く済むのです。

しかし、人間はそういった諸々のことを冷静に考えるよりも、もともと持っていたイメージを優先します。「手垢がついていない新築は瑕疵がないはず」「どうせ買うならきれいなお家がいい」。

いいかえれば「わかりやすさ」です。

こういった、「理解し判断できる能力には限界があるため、限られた合理性の範囲内で経済的な判断をしようとする」心理を限定合理性の心理といいます。

この限定合理性のワナは、見た目のキレイな物件にだけあるのではありません。激安物件といった、価格にインパクトがある物件にも存在します。

激安物件は通常、なんらかの欠陥や売れにくい理由があるからこそ激安なのですが、インパクトがあまりにも強いために思考が働かなくなるのです。

繰り返しになりますが、高額な買い物であるため、住宅購入時は冷静さを失いやすく、感情のコントロールが効きにくくなります。

なおかつ、不動産取引は、細かい法規定もあるため、一般人にはあまりなじみがありません。そのため、限定合理性のワナにハマりやすくなり、いざ住んでみて失敗に気づくのです。

さらに、普段の日常生活で食費やレジャー費などを節約している家庭ほどフラストレーションも溜まりやすいので、こういった高額物件で節約した得以上の損を被りやすくなります。

他にも「最初に見た物件を見て『これだ!』と思いこんで買ってしまう」「欲しい物件のイメージがあまりにもよすぎたために、無理に背伸びして資金計画を組んでしまう」という失敗があります。

いずれも、住宅購入という買い物が高額で、なおかつ日常生活からかけは離れた行為であるために、冷静さを失ってしまうがゆえに起きています。

しかし、高額な買い物という非日常的な行為は一瞬ですが、「住む」「暮らす」という行為は長く続くものです。

しかも、失敗したからといって簡単に住み替えることはできません。

本来気にするべきは、物件の印象や価格ではなく、「実際に住みはじめたらどういう生活になるのか」「返済計画に無理はないか」「周囲の環境はどうなのか」といった生活のリアルについて、メリット・デメリット両方を視野に入れて考えることなのです。

住宅購入は、私たちが思っている以上に感情のコントロールが必要な行為です。そのため、仕掛けられたワナにハマることなく、まずは自分の状況を第一に考え、資金的にも日常生活を送る上でも無理がないかどうかを冷静に判断しましょう。

(文/税理士・心理セラピスト 鈴木まゆ子)