『生きているかぎり語り続ける』(舘林愛/主婦の友社)

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 日本の戦後70周年を期に、昨年アメリカで発売され話題になった絵本『生きているかぎり語りつづける』が、日本語の絵本として2016年7月29日(金)に発売された。NY在住の日本人イラストレーターによる、長崎原爆被災者である谷口稜曄(すみてる)さんの“その時と今”がつまった一冊だ。

私のこの地獄のような苦しみは死ぬまでつづきます。私は死を恐れているわけではありませんが、忘却を恐れます。それは原爆の恐ろしさを忘れてしまうということです。そうなると人々は次第に核燃料などを受け入れ、ついには核兵器を受容してしまう。だから私は皆さんに私の体をしっかりと目に焼きつけてほしいと思うのです。核と人間は決して共存できません
谷口稜曄さん

 同書は、16才のときに長崎に投下された原子爆弾で、背中に大やけどを負った谷口さんに、アメリカ在住のイラストレーター、舘林愛が直接インタビューを実施し、描き起こしたもの。
決して癒されることのない体を抱え、原爆投下から71年経った今でも、原爆と戦いながら生きている谷口さん。その様子を、妻の栄子さんとの暮らしぶりを織り交ぜながら描いている。

 著者の舘林は、イラストレーションを学ぶために渡米。外側から見た日本について改めて学ぶことも多く、中でも最たるものとして、原爆投下を正義とするアメリカ人と、原爆投下が及ぼした非人道的な残虐さを学んだことのある自身との認識のギャップだった。その頃、たまたまテレビで谷口さんのことを知り、「平和が蘇って、昨今の世相を見れば過去の苦しみなど忘れさられつつあるようです。でも私はその忘却を恐れます」という言葉に感銘を受けた舘林は、いつか自分のイラストレーターとしてのスキルを使って、谷口さんのこと、原爆のことを世界に広く知らせたいと思うようになり、この絵本を作ったのだ。

 しかし、原爆の脅威を語るためだけに絵本が作られたわけではない。絶望から立ち上がり、「懸命に生きようとすること」の素晴らしさを伝えており、複雑な日常社会に疲れた現代人にも普遍的なメッセージとして届くはず。谷口さんの不屈の精神が、己の家族愛や平和活動を生み出しているように、各個人の生きる力は希望と平和に繋がることを教えてくれる。

谷口稜曄プロフィール
16歳の時、郵便配達の仕事中に、長崎市の爆心地から約1.8kmの地点で被爆。背中に大やけどを負う。3年7カ月の入院生活を経て、復帰。以降は反核、平和活動に従事し、欧米、アジア諸国で講演する。また日本原水爆被害者団体協議会の代表委員などを務めており、2015年にはノーベル平和賞にもノミネートされている。

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