2016年8月9日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

KADOKAWA アスキー・メディアワークスが、Web・デジタル業界で働くクリエイターやマーケターなどに向けたメディア「WPJ(ダブリューピージェイ)」を7月20日にオープンした。無料で読めるコンテンツを制限し、全てを読みたい読者には有料会員登録を促す、というモデルを採用していることで、業界には話題となっている。

Webメディアのマネタイズ方法は基本的には2つだ。1つは無料でコンテンツを提供して広告で稼ぐスポンサード型、もう1つは有料でコンテンツを提供する課金型である。もちろん部分的に無償でコンテンツを「味見」してもらいつつ、課金コンテンツへと導くハイブリッド型も存在する。WPJの戦略もこれに当てはまる。

課金型で国内での数少ない成功例といえば日経新聞の日経電子版だろう。しかしこれはまず紙の新聞ありきで、紙の新聞の購読者のスライドであり、「新聞紙が月次で自宅に届く」よりはスマホやPCで読める方が楽である、という変化だ。新聞紙の定期購読がゼロになったとき、電子版だけで今の会社体制を維持できるかというと、そこまでの成功というわけではない。また、新聞紙のサブスクリプションという基盤があって初めて成立しているメディアでもある。

ただ、経済情報であれば日経、というブランドは我が国のほぼすべての経済人にマインドセットされたものであり、これまで紙として買っていた情報を、デジタルとして買うことになっても、買い続けるだけの価値を見出しているのも事実である。

日経新聞が提供しているような企業情報や市況に関する情報は、なかなかに他のサービスによって代替できないと皆が考えているから、課金型メディアが成立する。逆に言えば、課金コンテンツとして成立するのは、それが他では手に入らないものであり(A)、そもそもお金を出して買うことが当たり前である(B)という、AとBが両立しているコンテンツでない限りありえない。

例えば100均ショップで買えるグッズや化粧品できれいになれる方法、といったコンテンツは世の中に無数にあり、これを課金コンテンツとして提供しようとしても意味がない。これまで多くの女性がファッション誌を買っていたのは、きれいになるためのノウハウやファッショントレンドを知るためだったかもしれないが、いまではそういう情報はいくらでも無料で手に入るし、ファッションリーダー(例えばタレントのローラさんや水原希子さん)たちがInstagramなどで無料で(いままでは女性誌でしか見られなかったような希少な)写真を公開しているので、わざわざ雑誌を買わなくても「勉強」できてしまう。

その意味で、WPJ の戦略は、読者の対象をかなり絞った上で、プロ向けの情報提供をしていく、という点で上述の条件には合っている。合ってはいるのだが、僕からすると大きな事業にするのはちょっと難しかろう、と考える。

その理由は2つだ。

1つ目は、WebメディアやWebサイトを作る、という意味で、スキルやテクニックがコモディティ化しており、いまさら深い知識を金を出して買うという行為が必要なくなってきているという点だ。このことは、僕のコラムで何度か指摘している通りである。

2つ目の理由は、残念ながらWPJが非常に読みづらい、ということだ。クリエイターやデザイナー向けということで凝ったデザインを施したのだろうが、スマホでみると左右にグラグラして親指で読み進めようとするとブレてイライラするし、PCで見ても余計な装飾がありすぎてコンテンツに集中できない、という点だ。


WPJ


URL. https://www.webprofessional.jp/

メディア運営側が、なんとかトラフィックを生み出し、それを換金しようとトライすることは重要だし、苦労がしのばれるのだが、いまのメディアはコンテンツが全てであり、課金しようとするならなおさら、余計なデザインを施して読みづらくするようなことはしてはならない。現時点ではWPJはそのタブーを犯しているように思う。

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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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