『高校野球の経済学』(中島隆信/東洋経済新報社)

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 夏の甲子園、真っ盛り。高校生年代の野球の大会が、これほど国民的関心を集めるのは世界でも珍しいケースだ。その理由は野球という日本の人気スポーツで、郷土愛を刺激し、かつ、心身共に未熟な点も高校生であるうえに、後がないトーナメント一発勝負ゆえに起こりがちな劇的なゲーム展開などなど多数ある。「高校球児」というものが「損得抜きで「ひたむき」に「仲間と助け合い」ながら目標を目指すという、日本人が好むイメージを体現する存在であることも好感を得やすい点だ(少し意地悪にいえば、それがたとえイメージ、一部分だけだとしても)。

 そんな高校野球が世間に与える影響は、当然大きい。それゆえ に高校野球には、大人の思惑も大いに絡む。たとえば高校野球はNHKの全国放送で全試合、生中継される。国民的関心が高い朝から夕方まで放送される番組。夏の風物詩、という感覚で当たり前のように観ている人も多いからもしれないが、その広告宣伝効果を考えると、とんでもないコンテンツである。商業的な視点で高校野球をとらえる人が出てきてもおかしくはない。いや、至極当然のことともいえるだろう。しかし、高校野球はアマチュアスポーツ。「高校生の部活」として高野連(日本高等学校野球連盟)は「教育の一環」としてとらえている。そこに高校野球、甲子園をめぐる様々な問題と、それに対処した結果の特徴的なルールやシステム、風景が生まれる。

 経済学的志向から高校野球を考察、結果的にその成り立ちなどもまとめられた『高校野球の経済学』(中島隆信/東洋経済新報社)は、そんな高校野球のアンビバレントな部分も教えてくれる1冊だ。

 たとえば商業性の排除。「教育の一環」である高校野球は、人気コンテンツでありながら商業性は排除されることが基本理念だ。「とりわけ甲子園大会は全試合がテレビ中継され、それに便乗した商法を招来しやすいことから、高野連は徹底した排除策をとっている」(本書より)。ゆえに下記のようなことが禁止されている。

・ユニフォーム表面の商標、マーク
・薄手のユニフォーム着用のさいアンダーシャツの商標が透けて見えること
・上着とズボンのツートンカラーは禁止
・アンダーソックスは白、ベルトは黒または紺、手袋は黒または白のみ
(すべて本書より)

 これは代表例で、他にも細かな決まりはたくさんある。高校野球はプロ野球、あるいは少年野球などに比べてユニフォームや道具の色がシンプルだな、と思われるかもしれないが、これは上記のような ルールに基づいているからであり、結果的にそういったユニフォームがチームの伝統になっていたりする結果である。

 なぜこれほどまでにルールが細かいかといえば、ユニフォームの場合、チーム名や校章、地域名以外、たとえばメーカーの商標やマークが表面にあると、それは宣伝、つまり商業性につながるからである。色も同様で多種の色を認めてしまうと商標やマークがなくても、その色でどこのメーカーの商品かがわかってしまうケースが出てくるからである。先にも述べたが高校野球は全試合が生中継される人気コンテンツ。1試合でそのユニフォームは2時間〜3時間 、テレビに映る。これをCMとして考えれば、いかに商業的効果が大きいかわかっていただけるはずだ。

 ちなみにこうしたルールには商業性排除のほか、用具が華美になって「高校生らしさ」が失われることを防ぐ目的もある。では「高校生らしさ」とは何か……実はこれがクセモノだったりするのだが、その内容についてはぜひ本書を読んでもらいたい。汗と涙と感動と。いつもの年のように甲子園の熱戦を楽しむのもいいが、こうした背景や選手・チーム事情を知ると、彼らのプレーや試合はいっそう興味深いものになるはずだ。

文=長谷川一秀