痛みを我慢したり放置したりすると…(※イメージ)

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 肩の痛みの中でも、多く見られる肩腱板(けんばん)断裂。早期に受診すれば薬や注射などの保存療法で治癒することが多い。しかし痛みを我慢したり放置したりすると、腱板が完全に断裂して、手術が必要になるケースもある。

 肩の痛みを感じている人には、四十肩や五十肩と呼ばれる肩関節周辺の筋肉の炎症(肩関節周囲炎)や、腱板(けんばん)の損傷がみられる。腱板とは、筋肉および腱の複合体で、肩関節に安定性をもたらす。

 腱板の一部、もしくはすべてが切れてしまっている状態を肩腱板断裂という。肩関節周囲炎とは異なり、たとえ痛みがあっても腕を挙げられることが多い。

 昭和大学藤が丘リハビリテーション病院スポーツ整形外科の筒井廣明医師はこう話す。

「肩が痛いという患者さんのおよそ9割に、腱板の断裂が認められます。明らかな外傷が原因で断裂するケースは半分で、日常生活の中で特にきっかけがなく、肩腱板断裂を発症することもあります」

 筒井医師は、具体的に肩のどの部分の使い方に問題があって痛みが引き起こされているのか、という観点から、痛みの原因を二つに分けて考えている。

 一つは肩関節そのものの使い方が原因の痛み。もう一つは体幹や骨盤など、ほかの部位の無理な使い方による肩関節の痛みである。

「肩関節に原因があるのに、肩を無理に動かす治療では関節を破壊するおそれがあります。逆に、肩関節以外に原因があるのに、『肩関節に痛み止め』だけでは治療効果は期待できません。そこでまず、痛みの原因を特定することが大切です」(筒井医師)

 同院の診察では、患者の姿勢をチェックし、患者に腕をどれだけ真上に挙げられるかをやってもらう。続いて、どの方向に力を加えると痛むかなどの動作をしてもらい、原因を鑑別する。MRI(磁気共鳴断層撮影)などの画像診断で、しっかり裏付けもする。

 2015年春、静岡県の会社員・田中真理子さん(仮名・47歳)は、仕事中に左手を伸ばして書類を取ろうとしたところ、左肩に激痛が走った。その後も同様の痛みが続くようになり、さらに、腕が上方向に挙がらなくなった。

 自宅近くの病院を受診したところ、肩関節周囲炎と診断され、痛み止めと湿布薬をもらった。しかし、左肩の痛みや動かしづらさが続いたため、3カ月ほどで別の整形外科クリニックを受診。理学療法士によるリハビリを受け、痛みは改善した。

 しかし、半年ほど続けて腕は挙がるものの、肩の動きは一向に戻らなかったため、16年1月に筒井医師をたずねた。

 筒井医師は、田中さんに肩を動かしてもらい、痛みの様子をみた。すると田中さんは肩甲骨(けんこうこつ)を支える、背中の表層にある筋肉の僧帽筋(そうぼうきん)を中心とする痛みを訴えた。

「田中さんは肩関節周囲炎に加え、腱板の一部が断裂していました。この痛みをかばっているうちに、肩から胸の上部全体の運動性が低下したと考えられます。前に受診していた病院の治療により、肩関節周囲炎は改善していたものの、肩周囲や体幹の筋肉が硬くなったままでした」(同)

 そこで、筒井医師は、僧帽筋への過度な負担を抑え、体幹を中心に運動性を向上させる運動療法をおこなった。椅子に座り、腕をまっすぐに、指先を斜め上方向へできるだけ伸ばす運動などだ。脇から下が伸びることを意識しておこなう。すると2カ月後、初診時には、耳から離れた位置までしか挙げることができなかった左腕が、耳につけてまっすぐ天井に向けて挙げられるまでに肩の動きが回復した。

 筒井医師は治療に加えて、次のような肩の負担を軽減する、日常生活のアドバイスをした。

「左肩が痛むなら、立ったり歩いたりするときに、へその少し右側で、左手の親指だけベルトの中に入れて左腕を休ませる」「椅子に座ってパソコンの作業をする場合には、ひざの上に枕を置く。痛むほうの腕を軽く曲げてその枕の上に置いて、ひじが浮いた状態にならないようにする」

 小さな工夫だが、これによって腱板の負担を減らすことができるという。

週刊朝日  2016年8月12日号より抜粋