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東京理科大学 理工学部 経営工学科 大和田勇人教授らは8月5日、都内で記者会見を開き、搾乳ロボットやセンシング技術の応用により得られる情報間のルールを導き出すことにより、発情や疫病の予兆を早期に把握し、酪農家に発情監視の強化や獣医師による早期診断などを促す高度飼養管理支援システムの開発を進めることを発表した。

研究計画は農林水産省の「革新的技術開発・緊急展開事業」(うち先導プロジェクト)に採択され、2016年度〜2020年度までの5年間、東京理科大学が中心となり、家畜改良センターと鹿児島大学学術研究院農水産獣医学域獣医学系、北海道立総合研究機構根釧農業試験場、デラバル、トプコンと共同で取り組む。

現在、日本の酪農は生乳生産量や1頭あたりの乳量の低迷、産次数や供用年数の低下、繁殖率の低迷や分娩間隔の拡大などの問題を抱えている。問題の原因としては適時適切な飼養管理ができていないことなどがあると考えられ、これらの問題を解決する新たな技術の開発・酪農経営モデルが求められている。

そのような状況を踏まえ、大和田教授は「課題をトータルで解決するためには新しい技術が必要であり、酪農経営モデルを開発することに至ったという。その中でもAI技術を導入し、1頭1頭についてAIで管理して課題を解決するほか、酪農のビッグデータを高度に活用することで、酪農をこれからの時代の国民の食や資源循環を支える成長産業として育てる」と訴えた。

同研究は人工知能の技術を導入することで、搾乳ロボットと生乳分析器であるハードナビゲーター(デラバルの生乳分析装置)およびカメラなどの各種センシング技術を用いて集積した酪農ビッグデータを、高度に活用することを試みるものだ。

これらを総合的に活用した新たな個体情報高度活用トータルシステムを構築することで、乳用牛の健全性・生産性の向上、適時適切な飼養管理・省力化、繁殖管理改善・生涯産次数の増加が実現できるという。

○AI技術は機械学習を基にルールベースを採用

今回の研究では、内分泌系や生化学系の体内データを搾乳ロボットやハードナビゲーターを活用し収集するとともに、新たに開発するカメラなどを活用した各種センシング技術によりボディコンディションスコア、活動量、体表温といった視覚系のデータを収集。

さらに、血液などの採材の手法も用いることで個体ごとの各種データを効率よく収集し、各研究機関の支援を得て詳細なデータを蓄積することで、酪農ビッグデータを構築する。

酪農ビッグデータを有効活用するため、AI技術を用いることで大量、高速、多様なデータをリアルタイムに収集・解析することを可能とする。AIは、人間の脳の知的作業をコンピュータで模倣し、推論や学習を行うものだが、今回の研究では乳牛の個体状況の判定と予測を正確に行うために活用する。

今回の研究に用いるAI技術は機械学習を基にしたルールベースを生成する方法を用いる。そのため、ルールベースが判断基準となり、なぜそのような判断をAIが下したかを遡って説明することができるため、獣医師が診断する際の補助として利用することが可能だという。

大量かつ多種多様なデータの応用により得られる情報間のルールを導き出すことで、疾病や繁殖の予兆を早期に把握し、酪農家の発情監視の強化、獣医師による早期診断などを促す高度飼養管理システムの確立を目指す。

そして、酪農ビッグデータを酪農家が実感できる有効なビッグデータ活用技術を提供するため、さまざまインタフェースを構築する。酪農ビッグデータから導かれる情報を、酪農家が必要とする時に必要な場所で得ることができるシステムの開発を進めていく。東京理科大やトプコンでは、このようなデータ表現デバイスについても高度な技術を有しており、現場で使いやすいデバイスやシステムを開発するとしている。

同研究で開発予定のアドバイスシステムは、酪農ビッグデータの情報と各牛舎、乳牛個体ごとの情報を照らし合わせ、解析を行う。その解析情報を、GUIを活用することで、スマートフォンやタブレット端末を活用して適時適切に、また酪農家の利用しやすい形で表示。例として、牛舎ごとの情報ではマップ上に牛の行動パターンを、個体ごとの情報では発情状態や病歴などを判り易く表示するという。

データの収集に加え、メンバー間で大規模な実証試験・調査も行い、これらの生産現場と連携してフィードバックを実施し、実用化と普及を図る。同研究では、家畜改良センター、鹿児島大学、根釧農試でロボットを導入した酪農家、数十戸の協力を得てデータの取得・実証を行う。これら全体システムを協力酪農家の下で一体運用実証を行い、乳牛の健全性向上・産次数増加・経営改善効果を実証する。

今後の展望として、同研究の体系化・システム化により、乳牛の健全性向上や牛舎での拘束労働からの解放、適時適切な飼養管理が実現される。また、研究拠点における実証や、各拠点における酪農現場と連携により、全国の畜産クラスターなどに向けた普及の加速化も期待できるという。また、研究期間中の一体運用実証を計画しており、研究終了後の早期の実用化・市販化を目指す。

大和田教授は「今回のプロジェクトは牛の視覚データ取得システムの開発だ。すでに体内データ取得システムは搾乳ロボットと生乳分析器により実現可能となっている。そのため、画像処理による牛の体型、行動パターン、体温など外から見たときの状態を表す視覚データ取得システムを構築し、最終的にはAIによるアドバイスシステムにつなげていくことを目指す」と意気込みを語った。

(岩井 健太)