上場長者15人の「お金の貯め方・使い方」

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経営者になる人は、プライベートでどんなお金の使い方をしているのか。アンケート結果から見えたこととは?

■小宮一慶さんはこう読み解いた!

日本には株式会社が200万社以上あります。そのうち外国企業を除いた上場企業は約3500社。そう考えると、回答者のみなさんはかなり難しいハードルを越えてきた人たちです。

それを前提にアンケート結果を見た場合、意外とみなさん堅実だという印象を受けます。経営者なので、お小遣い制ではない人がほとんどなのは当然だろうと思いますが、月々自由に使える金額が「5万〜10万円」が3人、「10万〜20万円」が4人というのは、思ったより少ない気がします。

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サラリーマンとは何が違う? アンケートでわかった社長の金銭感覚
2014年、マザーズ、JASDAQ上場企業の経営者に聞きました!

【アンケート概要】
2014年にマザーズ、JASDAQに新規上場した企業55社の経営者に向け、「2014年新興企業トップの金銭感覚」と題し、緊急アンケートを依頼した。

【ご回答いただいた15企業の経営者】
インターワークス 雨宮玲於奈社長、エクストリーム 佐藤昌平社長、グランディーズ 亀井浩社長、ジェネレーションパス 岡本洋明社長、SHIFT 丹下大社長、白鳩 池上勝社長、セレス 都木聡社長、東武住販 荻野利浩社長、レアジョブ 加藤智久社長(社名50音順)。ほかに社名・経営者名とも匿名で6名。

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社長の年収はマザーズだとピンキリですが、ジャスダックの場合は3000万円くらいはもらっているはず。そう考えると、実際に使える金額はもっと多いのではないでしょうか。ただし、このあたりの金銭感覚は世代によっても違います。2008年のリーマン・ショック後に上場した経営者は「いつかまた、あのようなことが起こるかもしれない」という慎重さを持ち合わせています。つつましさは、その表れかもしれません。

社長と聞けば、運転手付きの車に乗っているイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、新興市場に上場したてで運転手付きの車に乗っている経営者は稀です。夜遅くなる場合でも、行きは電車で帰りはタクシーを使う人がほとんどです。家計管理を妻任せにしている人が多いのは、事業に専念するためでしょう。

一方で、「家族サービス」にお金をかけると答えた人が9人もいるのは印象的です。事業を伸ばすには家族の理解と協力が欠かせず、家庭内にトラブルを抱えていると事業どころではなくなってしまいますから、会社を大きくしている経営者ほど家族を大事にします。それから、みなさん勉強熱心です。本を読んだり、セミナーに出かけたりというのはもちろん、国内外を家族旅行するのも市場調査にもつながりますから、経験を豊かにするお金の使い方はとてもよいことです。

お金は魔物とも言います。中国の『書経』には「物を弄べば志を喪い、人を弄べば徳を喪う」とあります。いい服を着て、美味しいものを食べ、高級車を乗り回し……ということばかりしていると、志を失う。上場すれば、一般的には最低でも億単位のお金が入りますが、急に生活を派手にすると身を持ち崩す原因にもなります。事業そっちのけで遊んでばかりいる経営者を従業員も尊敬できないでしょうし、金銭感覚があまりに一般人と乖離してしまうと、事業にもマイナスでしょう。

電車賃にしても、食べ物の値段にしても、世の中全体の価格は一般家庭を基準にしてつくられています。経営者になってリッチになると、どうしても生活全体の水準が上がって贅沢になってしまう。そんなときに自分の感覚が狂ってきていることに気づけないと、みっともないですよね。

自由回答欄を見ても「成り金っぽく見られない」ように気をつけるとか、「使うべきところで使う」など、お金を使うことの難しさを感じている人が多いようです。

「公私の区別を明確にする」と書いている人がいますが、これはとても重要な点です。私もセミナーで経営者にはよく、「自分のお金を使うか、会社のお金を使うかで迷ったときは、自分のお金を使いなさい」と話しています。

社長が自腹でおごってくれているのか、会社のお金でおごってくれているのか、は社員もよく見ています。売り上げや利益が立たず、自分自身の給料を十分にとれなくなってしまうと、経営者はつい会社のお金を使いたくなってしまうもの。そこで公私混同すると、会社がますます傾いて悪循環に陥ります。そういう意味でも、日頃から公私の区別を明確にしておくのはいいことだと思います。

「お金も時間も使うものであり、使われてはいけない」――。これは、私の師匠であった曹洞宗の僧侶が生前、よく語っていた言葉です。経済的に成功した人がそれにふさわしい消費行動をとることも、もちろん大事です。そうしないと、文化も発展しません。重要なのはバランスです。

たとえば、時計が趣味という場合。私も時計は大好きですが、やみくもに買うとキリがないため、「刷り部数で10万部以上の本が出たら時計を一本買う」ことに決めています。

経営者ならば、「売上高100億円」や「利益10億円」などわかりやすくて到達するのが困難な目標を掲げ、それを達成できたら好きなモノを一つ買うなどのルールを決めておくのも浪費に歯止めをかける具体的な方法です。

中国古典の『論語』にもケチはよくない、とあるように、経営者たる者、時には気前よく振る舞うことも必要でしょう。以前、慈善事業への寄付を依頼された際、その場で財布の中から10万円を取り出し、封筒に入れて相手に渡したある経営者を見たときは、その自然な振る舞いに「さすがだな」と感じました。

人間が一生のうちに使い切れる金額などたかが知れています。日本でも海外でも、本当の成功者は文化活動や社会に貢献するためにもお金を使います。逆に言えば、それくらい高い志を持っていないと巨額のお金は入ってこない、ということかもしれませんね。

▼気をつけていることや、習慣は?

・ピケティにのっとっている。毎月のPLでやりくりしている。投資ポートフォリオを決めている
・趣味を除き必要最低限にする
・自分に投資すること
・家計簿のようなPLはつけていないが、資産残高をBS的には管理していて、一定の範囲を超えないように心がけけている
・小銭から使う
・そのときの気分で使う
・無駄なことには一切使わず、必要なときは惜しみなく使う
・成金っぽく見られないこと
・決めた範囲でしかお金を使わない(月給内での生活)
・感謝の気持ちを込める
・財布に綺麗にお札を入れる
・お札は財布に揃えて入れる。現金が必要な場合に備えて10万円前後準備している
・衝動買いをしない。前月末に資産高を極力マイナスにしない

▼トップが身につけておくべき金銭感覚、使い方、考え方は?

・100円のものを、1000円で買ってしまうような無駄をしない。そういった金銭感覚でいること
・必要以上に生活水準をあげない
・生きた金の使い方をする。人におごる。資産価値の本当の意味を考える
・使うべきところには使う。使う必要がないものには使わない
・バブルにならないようにする
・物に金は使わない。金で買えないものに使う(?)
・計画を立てる
・社員には自然におごれるように(感謝の気持ちで)
・日本株、世界株、債券、コモディティ、各国の金利、為替……などなど、以前にも増して勉強している
・会社の経営がうまくいかないときは、いつでも責任をとって、給料そのほか会社から受け取っているものをいつでも返納する覚悟
・公私の区別を明確にする
・投資と消費の違いを意識する
・接待はしても、できるだけ接待はうけない
・物をためこまない整理整頓(重複して買うことがなくなる)
・起業する前から、新しい場所に行く、人と会う、知識を得ることにはお金を惜しまないようにしている

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小宮一慶
小宮コンサルタンツ代表。名古屋大学客員教授。京都大学法学部卒業、米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行、岡本アソシエイツ、日本福祉サービスを経て独立し、現職。著書に『一流の人は本気で怒る』『松下幸之助 パワーワード』『小宮一慶の1分で読む!「日経新聞」最大活用術 2015年版』など多数。

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(コメント 小宮一慶 構成=曲沼美恵 撮影=永井浩)