なぜリオ五輪の女神は「イパネマの娘」なのか?

 ついに、リオ・オリンピックが開幕した。日本時間8月6日午前7時(現地5日午後8時)から3時間にわたって開会式が盛大に開催された。総合演出は映画監督のフェルナンド・メイレレス。『シティ・オブ・ゴッド』でアカデミー賞監督賞にノミネートされたことでも知られている。前回に引き続き、リオ五輪の開会式を盛り上げたサンバとボサノバについて、レポートしていきたい。

 ここで流れるのがヴィニシウス&ジョビンの名曲「イパネマの娘」。ピアノを弾いて歌うのは、ジョビンの孫であるダニエル・ジョビン。驚くのは、大観衆が一緒に歌っていること。この曲がヒットしたのは1964年のことだが、リオにおいては今でもみんな歌えるほどに知られているのである。その歌声に乗って、スポットライトを浴びて歩くのはブラジル出身のスーパー・モデル、ジゼル・ブンチェン。これが引退ランウェイになるということがアナウンスされたが、この世界一のモデルの最後の姿が「イパネマの娘」というのはすごい。

 カリオカ(リオっ子)にとって「イパネマの娘」は、世界一の美女ということなのだ。このあとは、ヒップホップなどのダンス・ミュージックが使われたパフォーマンスが続いたが、ブラジルらしさ、リオらしさという部分はボサ・ノヴァに比べるとかなり希薄な印象と言わざるを得ない。リオは「ボサ・ノヴァ」とより一層強く印象づけられる。

 そのあとは、各国選手団の入場が延々と続くが、そのバック・ミュージックはサンバ。これはサンバ以外には考えられない。サンバこそパレードにふさわしい。だが、最終入場となるブラジルだけは違った。曲は、通称「ブラジル」で知られる「アクアレーラ・ド・ブラジル(ブラジルの水彩画)」。作詞作曲はアリ・バホーゾ(Ary Barroso)。

 1939年に書かれ、1942年のディズニー映画『ラテン・アメリカの旅』で使われたが、フランク・シナトラやビング・クロスビーら数多くのカヴァーで世界的に知られている。とりわけジョビンをはじめ、ジョアン・ジルベルト、カエターノ・ヴェローゾ、ガル・コスタらボサ・ノヴァのミュージシャンがこぞってカヴァーしたことでボサ・ノヴァの名曲として広く認知されている。

 そしてサンバ・パーカッショニストの重鎮ウィルソン・ダス・ネヴィスらの演奏に続く最後のシメは、「ファンキ・カリオカ」と呼ばれるダンス・ミュージックで人気のブラジル・ポップスを代表する歌姫アニッタと、カエターノ・ヴェローゾとジルベルト・ジルの豪華共演。ヴェローゾとジルは言わずと知れたMPB(ブラジル・ポピュラー音楽)の歴史を作った巨匠たち。もちろんボサ・ノヴァの発展にも深く関わっている。

 このような音楽の使い方と印象をみると、マスコット名に表れているだけでなく、やはりリオの誇りはボサ・ノヴァなのだとあらためて強く感じられる開会式だった。リオ・オリンピックはボサ・ノヴァ・オリンピックと呼びたいほどだ。

 そんなカリオカの気持ちを知れば、オリンピックはもっと楽しめるはず。彼らが愛するボサ・ノヴァを知るなら発売中のCD付きマガジン『ジャズ・ヴォーカル・コレクション』(小学館)が最適。本誌にはボサ・ノヴァの歴史、アントニオ・カルロス・ジョビンら主要ミュージシャンのプロフィールも掲載、CDには「イパネマの娘」など数々のボサ・ノヴァ名曲が収録されている。

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文/編集部