猫をモチーフにしたガラス工芸品が幻想的「多くの人に江戸切子の魅力を伝えたい」

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猫のモチーフに江戸切子を融合させたグラスなどを制作しているのは、ガラス工芸作家の可夜さん。

猫をモチーフにしたガラス工芸品

可夜さんはガラス工芸作家として、ハンドメイド通販サイト「minne」や「creema」などで作品を発表しています。

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猫をモチーフにした「ガラス工芸品」の美しさから目が離せません。

なかでも「夕焼け猫+七宝紋/切子」は、ずっと眺めていたくなってしまいます。

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ガラス彫刻の夕焼け猫に、江戸切子の職人技を融合させた作品なんだとか。

また、今年の5月にテレビ番組でも特集され、現在も注文が増えているそうです。

さらに可夜さんは、「minne」の人気作家ランキング(雑貨・家具)にて、2カ月連続で1位を獲得するほどの人気を誇っています。

漠然とした未来より確かなものが欲しい

「夕焼け猫+七宝紋/切子」のグラスは、一体、どのようにして生み出されたのでしょうか?

ガラス工芸作家の可夜さんへお話を伺ってみました。

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―― 「ガラス工芸作家」になったきっかけを教えてください。

ガラス工芸作家にいたるまでに、3つの転換点がありました。1つ目の転換点はかつて住んでいる所の近くにあったガラス工芸の体験工房です。

20歳になった時に、今後の将来をどう描いていくかを真剣に考えました。

漠然とした未来より確かなものが欲しい。手に職が良いと思いました。

ふと思い浮かんだのが、幼い頃に海外旅行で見かけた吹きガラスをしている人たちの光景でした。

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オレンジ色の熱を帯びた飴が人の手で自由自在に変化していく。

その様が脳裏に焼き付いていたのでしょう。気付いた時には「ガラス」と検索をかけていました。

幸い、近くにガラス工芸をひと通り体験できる工房がある事を知り、すぐに行動を起こしました。

当初、吹きガラスをやる予定だったのですが、サンドブラストという響きの良さが気になり、そこから始めました。

砂をかけて彫ると言ったシンプルなものですが、やってみると奥が深いです。

やり方次第で何でもできるという応用性の高さにほれ込み、のめり込みました。あくまでも体験工房でしたので、技術自体は誰に教わることもなく、完全に独学でやっています。

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2つ目の転換点は、都内の宙吹きガラス工房へ飛び込んだ事です。

就職活動の最中、どうしても吹きガラスの世界に行きたいという憧れは消せませんでした。

吹きの経歴としては、就職活動が始まる前に専門学校の夜間講座を半年受けていたくらいです。

今思い返すと技術としては赤面ものだったと思います。

いくつかの吹きガラス工房に直接足を運んだ末に、熱意を買われ受け入れてくれた所が一つありました。

そこで多くの事を学び、経験した事は自分の糧となっています。ガラスの仲間も増え、数年経った今でも付き合いが続いています。

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3つ目の転換点は、不動産会社の営業として働き始めた事です。

工房が諸事情で閉鎖する事になり、この先どうしようかと思ったときに、長らく音信不通だった旧友と偶然出会い、気付くと就職していました。

毎日がドラマのように、さまざまな問題や出来事が生じ、それを一つ一つ解決していく事で営業力、交渉力が培われました。

尊敬できる社長、上司がおり、厳しくも人間関係に恵まれていました。

ただ、やはりどうしてもガラスの道が捨てきれませんでした。

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一つ売り上げを決めて行く度に、着実に営業マンとして心が変わっていくような気がしたのです。

辞意を伝えたところ、引きとめられましたが、長く悩んだ末にガラスの道に戻る事を決めました。

「駄目になったらいつでも戻ってきていいよ」という後ろ盾があったからこそ、ガラスづくりで突き進んでいくと固く決心しました。

モノづくりとは真逆の世界でしたが、この会社にいれた事に誇りを持っています。

ここでの経験が現在のフリー活動において、とても役に立っています。

長くなりましたがこの3つの転換点があったからこそ、ガラスづくりで生きていくという長く険しい道を、もう迷う事なく歩んでいます。

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―― 「夕焼け猫+七宝紋/切子」のデザインと江戸切子を融合してみようと思った理由と、作品が生まれた経緯を教えてください。

私の作品はオレンジのガラスを使ったものが多く、非常に特徴的です。

夕焼け猫デザインと相まって、昔懐かしく、切なくなるとの感想をいただきます。

よりオレンジのガラスの魅力を伝えるためにも切子の特徴である装飾性と透明性を作品に取り入れたいと前々から思っておりました。

私自身はガラスが好きなので江戸切子も大好きなのですが、私と同世代の若い人たちにはガラス工芸自体に関心はそれ程ありません。

ましてや江戸切子を知っているのはご年配の方が中心です。では猫のグラスだとしたらどうでしょうか?

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さまざまな年齢層の方に、手に取ってもらえる確率がぐんと上がります。そこでさらに江戸切子を取り入れたら、興味を持ち始める方もいると感じたのです。

実際に今まで江戸切子に興味はあるが迷っており、猫切子をきっかけに購入しましたというメッセージもいくつかいただいています。

伝統工芸の江戸切子を知ってもらうには、ハードルを下げることも重要です。猫グラスという、ワンクッションを挟むことで江戸切子に興味を持っていただける方が増えました。

これが猫と切子を融合しようと思った理由の一つでもあります。猫好きの層を、ガラス好きに、切子好きに引っ張り込みたかったのです。

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「夕焼け猫+七宝紋/切子」が生まれる経緯ですが、もともと満月を底に彫り、そこに「星弧紋デザイン」の切子を加えようと思ったのが始まりでした。

教科書に出てくるような星の軌跡のようなグラスを作りたかったのです。

打ち合わせの末に2015年の12月頭に初めて江戸切子と融合した作品である「琥珀満月+七宝紋/切子」と「琥珀満月+星弧紋/切子」を出しました。

いざできてみてから発見したのはグラスの底にある満月の部分が、切子を入れる前に比べて格段に輝きを増した事です。

これは切子を側面に入れる事により発生した光の効果でした。ある程度狙ってデザインしましたが、予想以上に美しかったです。

想像を超えるお声をお寄せいただき、数日で完売、再販までに1〜2カ月お待たせしてしまう状況になりました。

しかし課題はありました。底部分のガラスの肉が分厚く、失敗の難易度が側面に比べ格段に上がってしまうのです。

側面に彫刻(サンドブラスト)がある作品はよく見かけますが、底面の本格的な彫刻(サンドブラスト)が全くといってないのはこれが理由です。

minne/IceCrack+

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第2弾は、一番人気だった「夕焼け猫/ロックグラスL」の猫部分の真後ろ(つまり側面)に切子を施そうと考えました。

先ほど述べた底肉の厚みの課題があり、底への加工はやはり避けたかったのです。しかし、あるお客様からいただいた1つのメッセージが私を動かしました。

お酒好きなご主人に贈るために「底部分に猫が彫刻された切子作品」を見てみたいというのです。

側面の猫硝子は飾る場合にも向いていますが「夕焼け猫+七宝紋/切子」は、底にある夕焼け猫を楽しみながら呑むという実用性重視の器なのです。

そういった意味でリクエストされたのでしょう。

試行錯誤の末に、夕焼け猫デザインを底面に合わせ大胆にトリミングする事を選びました。

そして従来の加工方法の数倍の時間と手間をかける事で、この課題をクリアする事ができました。

完成した「夕焼け猫+七宝紋/切子」の写真撮影を行い、その写真を確認した時、何か予感めいたものがありました。この先、これを超える作品をつくるには相当苦労するだろうなと。

minne/IceCrack+

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―― その作品は可夜様がデザインし、底部の猫の彫刻(サンドブラスト・ガラス彫刻)もされていますが、ご自身でグラスにカット(切子)をしてみようとは思われなかったのですか?

やはり作家ですから、全て自分自身で完結したいという思いがあります。

一口にガラス工芸と言っても、ガラスの分野は実に広いです。全てを完璧にやれる人はまずいません。

主にホットワークに分類される吹きガラス、パート・ド・ヴェール、フュージング、バーナーワーク、コールドワークに分類されるサンドブラスト(ガラス彫刻)、カット(切子 )など、大まかに分けてもこれだけの分野があります。

また、江戸切子には非常に憧れがあり、ガラスを始めたばかりの頃に江戸切子職人の教室へ通っていた時期もありました。

何かを学ぶためにはお金がかかります。そしてモノにするまでには長い年月を要します。私には全てを学び続けられるほど、お金も時間もありませんでした。

そこで私はサンドブラスト(ガラス彫刻)を中心に、一から(素材から)作れる吹きガラスを極める事を選択しました。

生地(素材)がなければ作品は作れません。吹きに数年を費やし、現在は自分の作りたい色や形に近づける事が可能になりました。

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現時点では、私自身で完結したいという欲よりも、求められている声に寄り添い、形として世に送り出す方が大事だと思うようになりました。

もう少しで時間ができるはずなので、その時は次のステージ(切子)に行くかもしれませんね。

そういったことから、長年の付き合いがある老舗の江戸切子屋さんと綿密な打ち合わせをし、依頼をしました。

カットが(切子)できる事とできない事があり、その境界を知る事が重要でした。

とくに星弧紋は横一文字の流線が連なっていますが、切子という一連の工程上、縦の線を入れるよりも難易度が格段に跳ね上がります。

切子の基本的な部分は自分もやっていたので、ある程度分かっていたことも大きかったと思います。

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―― 今まで制作したものの中で、一番、苦労した、または難しかった作品はどれですか?

「凍れ夜桜」という特大花瓶の作品です。今までのグラスよりも大きなものを作ってみようと思い立ったのですが、想像以上に重く大変でした。

加工後で600gなのですが、加工前は1kgをゆうに超えていたと思います。

持つだけなら軽いと思われるかもしれませんが、それを細い竿の先端につけて成形加工するところを想像してもらえたら…。

竿を回すだけでも汗をかきますし、かなりの熱を帯びるので火避けだけでもアシスタントが必要で、吹きあげるだけでも1時間位はかかりました。

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この作品の生地を「多層パウダー被せ」と呼んでいるのですが、技法としては透明なガラスの上にパウダーと呼ばれるガラス粉をまぶして薄い層を形成し、さらに別の色のガラスパウダーを重ねています。

内側にスカイブルー、銀箔、透明、オレンジ、紫と色の層は5つあります。

彫る深さによって色が次々変わるのがこの技法の特長です。

通常、パウダーは透明の上に一色を被せたものが主流ですが、「多層パウダー被せ」は複雑な色を出せるので世界観に深みを与えます。

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5層も重ねて行くと、もちろん彫刻も大変でした。

桜の枝の細さを忠実に再現するように彫り抜かなければいけないので神経がすり減ります。

花びらの一つ一つ、バランスを見て配置していくのも重要でした。

まだ冬が終わろうとするかしないかのイメージなので、桜の花びらは咲き始めぐらいにしています。満開にするより難しい事に気づきました。

―― 可夜さんにとって「ガラス工芸品」の魅力とは?

他にはない、光を透過するガラスだからこそできるのです。

また、割れなければ永遠に形が残るというところも浪漫があります。

自分の人生を全て費やしてもガラス工芸を極める事はできないでしょう。

時間が圧倒的に足りません。生まれ変わってもまたガラスをやりたいです。

それほどに、この世界は広大なのです。だからこそやり甲斐はあります。

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―― 「ガラス工芸品」を制作する上でこだわりや、大切にしていることはありますか?

特にこだわっているのはガラスへ、塗料などによる絵付けや色付けをしない点です。

塗料などは、数年持ったとしても、数十年、数百年持つ保障はありません。

作品をご覧になれば分かる通り、色や模様、図案の表現はガラスに別の色ガラスを被せて、その色ガラスの層を彫り抜く事でできています。

ガラスの作品ですから、全てガラスで完結させたいのです。話がだいぶ飛びますが、私たちの文明が遠い将来滅びたとしましょう。

新たな文明が生まれ、かつてあった私たちの時代の遺物が出土されるかもしれません。

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さまざまなモノが発見される中で、その多くは当時に比べると色あせ、朽ち果てていると思います。

それがガラスだったとしたら…ガラスは割れなければ永遠に同じ形を保てます。

日本最古と思われるガラス小玉が縄文晩期の亀ヶ岡遺跡から出土したというニュースを見つけた時、私は自分の作品が遠い未来に、ひっそり掘り起こされたら、面白いだろうなと思いました。

掘り起こされるのも良いですが、数十年先だけでなく、数百年先、数千年先の後世の人たちに大事に受け継がれて行ったとしたら、私の本望です。

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大切にしている事は、情熱を持って制作し、物語を紡ぎだす事です。猫の作品が多いのは、自分の猫をモチーフにしているからです。

うちの猫の可愛さを世界に見せたい、と思いながらデザインをしたり、つくったりしています。こういう風景が欲しいと思ったときはロケハンにも行きます。

それらをベースに『幻想的な景色と猫』、その背景にある物語を考えます。物語なくして作品は生まれません。

また表立って明かしていませんが、絵本のようなものを先々できたらなと思っています。

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―― ありがとうございました。

熱意や情熱を原動力にして、幻想的で美しい「ガラス工芸品」を生み出していたんですね!

なお、可夜さんは8月27日〜28日開催の「真夏のデザインフェスタ」(E-28)、9月21日〜26日に松坂屋で開催の「猫フェスin GINZA」に参加するとのこと。

可夜さんの作品を近くで見てみたい方は、ぜひイベントにも足を運んでみてはいかがでしょうか?

※この記事のツイートと画像は可夜(@ice__crack )さんの許可を得て掲載しています。