2016年秋にフルモデルチェンジを果たす予定の新型インプレッサでは、新世代の「スバル・グローバル・プラットフォーム」を採用するなど、技術的にステップアップすることが期待されているスバル。

その『スバルのクルマ作り』において注目すべきなのは、ハードウェア系の進化だけではありません。開発を支える人のレベルアップも図られています。

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そうした施策のひとつが「SDA(スバル・ドライビング・アカデミー)」と呼ばれるもの。これは、開発エンジニアをテストドライブができるレベルまで引き上げるというプログラムだといいます。

2015年10月からはじまり、現在は第一期の途中というSDA。今回、そのトレーニングを体験すると同時に、SDAの意義などを聞くことができました。

1989年に、10万km連続走行での世界最速記録を作った初代レガシィといっしょに写っているのが、SDAのメンバーや関係者。なんと、そのレガシィでの記録更新の際も、プロドライバーに頼むことなく、すべて社員ドライバーで賄ったといいます。

当時、レガシィで世界記録を作り、現在はSDAプログラムを支えるチーフインストラクターの秋山 徹さんにお話をうかがいました。

もともとレガシィでの記録チャレンジの際は、情報漏えい対策として社員から選抜したドライバーで挑むことになったという経緯もあるそうですが、そのときも国内のテストコースなどで腕を磨き、本番に備えたといいます。

また、スバルにはテストドライバーという職種が存在しないということも驚く話でした。

もちろんテストをしていないという意味ではなく、テストだけを専門にしている人材を置かず、エンジニア自らがテストのためクルマを走らせることで、問題点を見つけ、その対策を練るというのがスバルのクルマ作りの特徴。

細かく分業しないことが、一貫性を持ったクルマにつながっているというのです。

新たに始まったSDAは、そうしたエンジニアのテストドライバーとしての感性をさらに磨くためのプログラム。実験部門だけでなく、それぞれの開発部署から推薦された合計20名のメンバーが、自社のテストコースなどを走り、そしてレースにも挑戦し、体が感じたことを基に議論することで、しっかりとテストドライブできるスキルを身に付けるべく、邁進しているのです。

なお、SDAの活動は月に一回(1泊2日程度)といいますから、しっかりと日常業務をこなした上でのスキルアップというわけです。

自動車メーカーのテストドライバーというと、いかにも腕利きで、速く走ることが得意というイメージもありますが、それは本質ではありません。

今回、SDAにてスキルアップを果たしているメンバーの幾人かにインタビューしたところ、一番大事なことは「冷静さ」という言葉が出てきました。

たとえば、最高速は速ければいいのではなく、性能を見極めるためには、指定された速度で一定に走り続けることが重要だといいます。単にメーター読みの速度を合わせるのではなく、車線の中央をブレることなく維持することも求められるといいます。

また、コーナリングなどの限界走行においても、エイヤッと気合で曲がっていたのでは再現性もなければ、クルマの問題点を見つけ出すこともできません。

恐怖心を克服し、冷静に操作と挙動を見つめることが大事なのです。もちろん、それはテストドライブの基本ですが、そのレベルをSDAによって高めているわけです。

そのために、世界を相手に戦ってきたプロドライバーも講師として招へい、テクニックだけでなく、メンタルも鍛えているということです。

こうしたエンジニアのテストドライブ・スキルのレベルアップは、クルマ作りに好影響を与えるといいます。

たとえば、エンジンベンチのような機上試験においても、数字を見るだけでなく、走行状態を頭の中でイメージしながら、リンクさせた試験ができるようになったといいます。

つまり、開発段階では数字として見えない過渡特性をエンジニアの中でシミュレーションできるようになるわけです。

また、数字として表現できるように、あらたな計測方法を生み出すきっかけになることも、SDAで腕を磨くことから期待されています。

あらためてチーフインストラクター秋山さんにうかがいました。SDAの活動はいつまで続けるのですか? と。

その答えは「未来永劫です」というものでした。

第一期で終わらせることなく、SDAというエンジニアのテストドライブ・スキルを磨く活動を続けていくことで、将来的にはすべてのエンジニアがトップクラスのテストドライバー同等のスキルを有した状態となることで、スバルのクルマ作りがレベルアップすることが狙いだといいます。

その対象はエンジニアだけにとどまらないかもしれません。企画部門やデザイナーもテストドライブのスキルを磨くことで、スバルのクルマ作りが一貫性を持ち得ることも期待されます。

たとえ自動運転の時代になっても、スバルのクルマ作りは「走りの愉しさ」を重視するという姿勢は不変なのです。

(文:山本晋也 写真:山本晋也/富士重工業)

スバルにテストドライバーはいない? 新型インプレッサも社員も鍛えられスバルのクルマ作りを底上げするSDA(スバル・ドライビング・アカデミー)とは?(http://clicccar.com/2016/08/07/391431/)