関東 日帰り 出会い旅 Vol.003 /アートで町の人に出会う旅(茨城県取手市)【前編】

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【毎週土曜 6:00 更新】
東京から90分以内の日帰り圏内。その円を広げてみると、そこにはとても豊かな自然や、新鮮な景色が広がっています。身近なようでまだ知らない「関東の田舎」で、地元を愛するみなさんと触れ合いながらの、楽しい週末旅はいかが?旅人は編集者/プランニングディレクターの磯木淳寛さん!



東京駅から電車で約60分。都心のベッドタウンとして発達した取手市にはいくつもの大きな団地が並んでいる。1991年には東京藝術大学の取手キャンパスが開設。このことをきっかけとして、感性の豊かな若者やアーティストも多く移り住むようになり、近年では住民ぐるみのアートの町としても新たな顔も見せ始めている



1985年生まれ取手育ち。東京と地元である取手の2拠点で活動中。東京では、“仕事の「あるがまま」”を紹介する求人サイト『日本仕事百貨』や、いろんな生き方働き方に出会う場所「リトルトーキョー」の運営を担当。取手では『取手アートプロジェクト』にて「取手アート不動産」の企画運営などに関わる。都内でチャイ屋「きみちゃい」を始めるべく準備中



◆団地の日常に溢れる壁面アート

磯木:中嶋さん、おはようございます!さっそくドドンと団地が立ち並んでますね。「これぞ郊外」な風景がむしろ新鮮です。

中嶋さん:昔から住んでいるとすっかりおなじみの景色なんですけどね(笑)。取手には“取手都民(とりでとみん)”という言葉があるくらいで、取手に住みながら昼間は東京に通っている人が今でも多いんです。一軒家の賃貸の相場が5〜6万円くらいですからね。東京藝術大学のキャンパスもあるので、卒業生やアーティストの方が活動拠点にしているのも特徴です。

磯木:中嶋さんも取手育ちで、現在は『取手アートプロジェクト』というNPOにも所属しているんでしたね。どんなNPOなんですか?

中嶋さん:『取手アートプロジェクト』は、市民と取手市、東京芸術大学の三者共同のアートプロジェクトで1999年に始まったものです。“プロジェクト”と言っていますが、時期がきたら終了するものではなく、継続的に若いアーティストたちが作品を作る活動を後押しして、市民が芸術と気軽に触れ合う機会を作っていこうとするものです。目指すところは、その結果として取手が文化都市のようになっていくことですね。

磯木:もう足掛け17年ですか。長期的に町にアートを根付かせようとする息の長い取り組みですね。

中嶋さん:とはいえ、当然ながら市民すべてがアートに興味のある人ばかりではないです。どちらかといえば、アーティストが一風変わったことを始めても「ああ、また若い人がなんかやってるな」と、自然と許容される状況ができていくことのほうが重要というか。アートを通じて「いろんな人の生き方があってアリだよね」と認められていく土壌を作っていく感覚ですね。

磯木:なるほど!アートが町に果たす役割に可能性を感じますね。お…、あれは??





日常空間そのものを作品化する表現を行う現代美術家、上原耕生(うえはらこうお)さんの作品『IN MY GARDEN』(2014年)。当作品の制作をきっかけに取手に移住

中嶋さん:これは、『IN MY GARDEN』というタイトルの壁面アート作品群です。上原耕生(うえはらこうお)さんというアーティストがこの戸頭(とがしら)団地に実際に住んでいる人たちの思い出やエピソードを手づくりのポストで集めて、そこから空想を広げてアートとして表現したものなんです。

磯木:団地の壁をまるごと使ってしまうなんてスケールが大っきいなあ。あ、これは居酒屋に通うのが好きだった方のエピソードが元になってるんだ。店に向かうために登っているのが面白いね。







写真撮影をしているとうっかり洗濯物や干している布団が写りこんでしまう生活感も堪らない!

磯木:作品の説明を一つひとつ読みながらあちこち見て歩くのも楽しいなあ。町にはみ出したアートっていいですね。写真撮って歩きたくなります。この団地の壁面アートは全部でいくつあるの?

中嶋さん:今は全部で12面で、さらにあと3面増える予定。写真撮影といえば、この団地の中には実は野鳥も多いらしくて、バードウォッチングに来る人もいますよ。



◆作家の活動を後押しするアーティスト・イン・レジデンス

日常の中にアートが同居する戸頭団地をあとにして向かったのは、中嶋さんの取手の拠点である、取手アートプロジェクト(TAP)の事務所がある活動拠点『TAKASU HOUSE(タカスハウス)』。建物内では、作家の活動を後押しするためのアーティスト・イン・レジデンス(短期間滞在製作)が行われていた。

磯木:事務所でありながら、すでに壁面がアーティスティックです。

中嶋さん:これは以前取手に来られたアーティストさんがこの地域の土を使って制作したものなんです。で、こちらがアーティスト・イン・レジデンスで使ってもらっている部屋です。





磯木:おお、やってますね。しっかり広いアトリエで、伸び伸びと制作に打ち込めそう。ところで、アーティスト・イン・レジデンスって何ですか?

中嶋さん:アーティストの活動支援を目的に、作品制作のためのアトリエと寝床を一定期間提供するものですね。今はふたりのアーティストにアトリエとして使ってもらっています。彼女はこのプログラムの参加者なんですけど、愛知にある芸術大学をこの春卒業して、こちらに来てちょうど一ヶ月経ったところです。

早川文彩(はやかわ あや)さん:こんにちは。

磯木:ハンダゴテを使った作品制作をしているんですね。

早川さん:はい、こういった金属を使って抽象作品を作ってるんですけど、ここでは自分の作品と、この建物の別の部屋の床の間に作品を作ることになっています。

磯木:大学を出てすぐに自分のアトリエが持てるって贅沢ですねえ。しかもこの環境で毎日作品作りに打ち込めるんだから素晴らしい。ところで早川さんがこちらに来たきっかけって?そしてどれくらい滞在の予定なんでしょう?

早川さん:お世話になった大学の先生に勧められてですね。なんでも飛び込んでやってみようと思って。滞在は約3ヶ月の予定です。

磯木:ここで制作した作品は一般の人は見ることができる?

中嶋さん:アーティスト・イン・レジデンスの成果発表として、1階スペースを開放して展示会を開催することもありますよ。…ところで、そろそろおなかすきました? いつもお昼は持ち寄りごはんでみんなで食べているので、ぜひ一緒にいかがです?

磯木:わぁ、ホントですか!ありがとうございます!



早川文彩『blow』(2016年)。風でしなる何か。場所、時間、棒状のものが何なのかは、見る者に委ねられている



事務局のスタッフや、市民として関わっているお姉さま方に、取手のアートのこれまでをたっぷり教えていただきました。お互いを褒め合う仲の良いみなさん



・IN MY GARDEN
詳細は下記リンクより

・取手アートプロジェクト(TAP)
茨城県取手市高須2156 TAKASU HOUSE

TEL:0297-84-1874 (火・金 13:00-17:00)
※プロジェクトの視察・見学
2,000円/1名/2hまで(学生は1,000円/1名/2hまで。いずれも1名増えるごとに+500円)*資料代含む。

※アートスポットツアー
市内アートスポット(取手アートプロジェクト他拠点、市内アトリエ、屋外作品等)の希望者には上記料金に+3,000円(/2hまで・定員3名・4名以上応相談)にてツアーコースのアレンジも可能。*希望日の一週間前までに申し込み



食と地域を耕す編集者/プランニングディレクター

自然と共生する価値観と地域の可能性をテーマに雑誌媒体などに取材・執筆・企画。2013年から現場に身を投じるべく、海と里山のある千葉県いすみ市に在住。地域の営みを観察し未来をつくる書き手を増やすための合宿型ライター・イン・レジデンス「ローカルライト-地域の物語を編む4日間」を主宰し、全国で開催。石巻復興町づくり情報交流館コンテンツ編集デスク。季刊自然栽培「見えないものを見る」連載中。近刊予定として『小商いで自由に生きる〜房総いすみのDIYな働き方(仮) 』(2016年初秋発刊予定)。