写真=下林彩子

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毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、新作シングルと初のライブアルバムをリリースした坂本真綾さん。本誌で紹介してくれた『三島由紀夫レター教室』以外のおすすめ本や、昨年デビュー20周年を迎えて感じた想いなどを語ってくれた。

 歌詞づくりをするうえで、言葉選びを大切にしている坂本さん。本を読むときも言葉のリズム感に惹かれることが多いという。『ぼくには数字が風景に見える』(ダニエル・タメット)もまた、訳文の美しさに魅了された一冊。アスペルガー、サヴァン症候群である著者が、普通とはちがう自身に苦悩した人生をふりかえった手記だ。

「私には、数字が風景に見えたり、感情を色で区別したりすることはないけれど、わかるなあ、と思う部分もあって。私と隣にいる人とでは、同じ景色でもまるで違うものとして見えているかもしれない。脳がどんなふうに世界を受け取って処理しているかは人によってきっと違う。自分だけまわりと同じようにできないとか、人と違うということで悩んでいる人はたくさんいると思うし、そんな不安を抱えている人にぜひ読んでほしいですね。もしかしたらこれはフィクションじゃないか、という声もあるそうですが、私はこの本を読んで救われたので。自分以外のものになりたいと願う限りはたぶんずっと苦しいけれど、自分の個性を受け入れられたときに、はじめて幸せの第一歩を踏み出せるんじゃないか。そんなことを教えてくれた本でした」

 大事なのはそこに何が書かれていたかではなく、何を感じたかなのだと坂本さんは言う。自分と同じ感覚や感情を見つけられたとき、その本はかけがえのない一冊となる。そしてそれは音楽も同じだ。

「主題歌をつくるときはいつも、作品の世界観と自分が重なる一点を探すようにしています。今回の『Million Clouds』はダイビングを通じて青春する女の子たちの物語ですが、30代の私が10代の彼女たちの気持ちをそのまま感じるのはむずかしい。だけど、新しいことに挑戦する恐れや不安は何歳になってもよくわかるし、むしろ大人になってからのほうが変化をおそれてたじろぐこともあります。それを踏み越える勇気と、今しかできないことをやろうという想いを表現しました。アニメを観る人はもちろん、そうでない人にも共感してもらいたいですし、聴いてアニメに興味を持ってもらえたら、もっと嬉しいです」

(取材・文=立花もも 写真=下林彩子)


『三島由紀夫レター教室』(三島由紀夫/ちくま文庫)

泣いたり笑ったり、恋したりフラれたり、金の無心をしたり、ときに憎み合ったり。職業も年齢も違う5人が手紙で思いの丈を綴りあううち、浮かびあがってくる人間模様。軽妙な友達関係だったはずが、恋心が絡んでいつしか事件を引き起こす。もつれあった糸ははたして元に戻るのか。往復書簡で進行する、粋な男女の物語。

※坂本真綾さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ9月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!