あとは、ゴール前のプレー選択がはっきりしなかった。セーフティファーストなのか、自陣からつなぐのか。どっちつかずだった。大きく蹴り出すのなら、それでオッケー。時間を作ることで4-5-1のラインを再構築して、もう一回立て直す。問題は約束事を決めて徹底できなかった部分にあるんだ。
 
 対戦相手の力量を肌で感じるのは対峙している選手たち。もしかしたらナイジェリアが想定以上のパフォーマンスをして、面喰ったのかもしれない。だとしたら、ピッチ上で判断させるのではなく、監督が責任を持って指示を出さなきゃいけない。
 
 手倉森監督はJリーグでの経験も豊富で、アジア最終予選で見せた采配も素晴らしいとは思う。でも、舞台はリオ五輪という世界大会だ。アジアとはレベルが違う。些細なミスを世界は決して見逃してくれない。ここからの“立て直し力”に期待したい。きっとやってくれるはずだ。
 最後に攻撃面だ。ある程度の形はできていたし、最終的に4ゴール。なかでも、興梠慎三はやっぱり良かった。ボールが収まるし、裏に抜ける動きでアタックに深さを作れる。サイドに流れても仕事をこなせる。広く、深く、攻撃にバリエーションを生んでいた。
 
 彼がいるから、大島僚太と南野拓実もより活きた。特に2点目なんて、練習通りの崩し。中島から興梠に縦にボールが入って、簡単に大島に叩いて、ダイレクトで南野へ。完璧で最高に良いシーンだった。
 
 その他の収穫は、途中出場した浅野拓磨と鈴木武蔵。このふたりが短い時間(浅野は54分に原川力と交代。鈴木は76分に中島と交代した)で結果を残せたのは、グループリーグの残り2戦に向けて好材料だ。
 
 鈴木に関しては、アジア最終予選の時にあまりいい印象を抱けなかったけど、イメージが一変した。DFを背負いながらも、上手くターンしてシュートを打ったり、非常に良かった。浅野もスピードを活かして推進力を生んでいたと思う。
 
 あと、なんと言っても大島だろう。1点目のPKを取ったシーンでも、彼がググッとペナルティエリアへ侵入したからこその賜物。後ろで捌いているだけの選手だったけど、猛スピードで成長している。川崎でも前への意識をかなり高く持ってプレーしていて、それがリオ五輪でも発揮できている。
 
 次のコロンビア戦では勝点3が不可欠だ。引き分けでも決勝トーナメント進出の可能性は残るけど、ほぼ終戦だろう。だとすれば、やはり試合の入り方が大切になる。最初からガンガン行かなくていいんだ。慎重すぎるくらいがちょうどいい。
 
 まずは早い時間帯での失点を避けることが第一。最初の15分で失点しなければ、試合は落ち着く。拮抗した展開に持ち込めば、日本にも絶対にビッグチャンスが訪れる。コロンビアは上手いし身体も強いけど、そこまで脅威ではない。A代表と違って、ハメス・ロドリゲスがいるわけではないからね。
 
 だからこそ、チームで共通認識を持った守備ができればそうそうピンチに陥らないはず。最終ラインとGKには名誉挽回してほしいし、一方で攻撃では興梠と南野と大島の連動が鍵になると考える。
 
 なんにせよ、試合は待ってくれない。初戦に負けたことは事実だから、それは忘れて、切り替えればいい。スウェーデン戦のことは考えないで、コロンビアにどうやって勝つのかだけに集中してほしい。
 あと、選手たちに個人的に言いたいことがある。五輪に出場することは、どんな競技だってなかなかないこと。ましてや男子サッカーは23歳以下(リオ五輪は1993年1月1日生まれ以降の選手)にしかチャンスはない。オーバーエイジに選ばれるのだって大変だ。
 
 だからこそ、「もっと楽しんじゃっていいんじゃないの」と。チーム内の決め事を守って、自分に与えられた役割をしっかりこなせているのなら、がんがん行っちゃっていい。あまりにも、金メダルという目標に縛られている気がする。みんな、プレッシャーを感じ過ぎているんじゃないかな。
 
 金メダルを獲るというのは、言うのは簡単だけど、本当に厳しい戦いを勝ち抜いた先にあるご褒美みたいなもの。だからこそ、まずはそればかりを気にするのではなく、きちんと大舞台を楽しんで、自分たちが培ったものを出すのが先決。
 
 能力はあるのだから、もっとリラックスしてほしい。新日本プロレスの内藤哲也選手じゃないけど、それこそ「トランキーロ(焦んなよ)!」だ。そうすれば、コロンビア戦もスウェーデン戦も勝利を手にできるだろう。ブラジル戦、そしてナイジェリア戦で学んだことを、無駄にしないことが大切になる。