『ガンカンジャ 1 空は高くいい天気なのに』

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 3人に1人が発症するがんの宣告。人生が一変する“その日”は、いま普通に生きているあなたにもおとずれる可能性がある。

 WEBコミックサイト『レジンコミックス』で累計1200万PVを突破したマンガ『ガンカンジャ』(フツー/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)の単行本がこのたび1、2巻同時発売された。

 がん患者の闘病記を描き韓国でヒットしたこの作品は、昨年8月から米国版ハフィントンポストでも連載開始。世界に静かな感動の声が広がっている。

 主人公は26歳の男性だ。ある日、腰の痛みを感じて病院に行った彼はあっさりと、しかし確実に、医師から「ステージ4」の胃がんを宣告される。2人の淡々とした言葉のやりとりとその間に横たわる長い空白が、まるで自分のことのように真に迫ってくる。

 ステージ4は、「身体の他の部分まで転移が進み 治療をしてもがんが進行したり悪化したりする状態で 末期がんともいう」状態のことである。

 そんな現実に実感がわかない彼の目に映る、いつもとは違って見える空、雲。奇跡を願う気持ちと覚悟を決めようとする気持ち。家族に話をしながらあふれ出る涙……。

 いつもの風景はもう二度といつもと同じには戻らない。その切実な悲しみと悔しさをシンプルに描き出す世界は、日常が当たり前だと思っている私たちに無言のメッセージを投げかけてくる。

 第5話から登場するのは、恐怖の闇へ落ちた彼がたどりついた不思議な森とそこに住む生き物たちだ。夢か幻か、生と死の狭間なのか、現実世界で行き場所を失った彼は、不思議な森をめぐる魂の冒険に出る。

 抗がん剤治療による副作用で激しい吐き気におそわれ、殺してほしいと思うほどの激痛に耐えている時間と、森の生き物たちと過ごす時間。まったく異なる2つの世界が主人公の内面を通して交錯していく。

 家族や恋人が、どんどん衰弱していく彼をただ見守ることしかできない現実の厳しさも、ずっしりと重く読者の心にのしかかってくる。理想の死に方について思いを巡らす一方で、がん患者の闘病記を読んで自分を励ます主人公の揺れる心象風景にも胸が痛む。

 また、そのあたりから森をめぐる話が増えてきて、彼は謎の「砂漠の王」に会にいくことになる。同時に現実世界の彼は「髪の毛が抜けて 一人で歩くのが大変になり 食べてはすぐ吐くように」なっていくのだ。

 森を巡る魂の旅はどうなるのか。このあと彼はどうなってしまうのか?

続きは2巻で描かれる。

 作者のフツー氏がこの漫画を描いたのは、胃がんで8年間闘病生活を続けた父親の死がきっかけだった。父親が亡くなる前までいわゆるブラック企業に勤めていた彼は、病床の父の側にいてあげることができなかったことを悔やみ退職。その罪悪感を払拭するひとつの手段としてこのマンガを描き始めたという。

 物語のベースになっているのは、作者が大学生時代にがん患者のための支援団体で活動していた経験と、多くのがん患者との出会い、そして読者のがん患者からのアドバイスだ。

 日本の読者のツイッターでは、「通勤、帰宅している時には絶対見るな」とつぶやかれている本作品。確かに涙なしでは読めないけれど、作者は特設サイトでこうコメントしている。

「私もこの作品を描きながらとても辛かったのですが、どうか主人公の孤独で寂しい旅路を最後まで見届けてください。」

 主人公の孤独は、いつか“その日”がおとずれるかもしれないすべての人の孤独だ。当たり前の日常は決して当たり前ではない。そんな大切なことに気づかせてくれるこのマンガを読めばきっと、身近な人たちと共有したくなるだろう。

文=樺山美夏