『エースナンバー 雲は湧き、光あふれて』(須賀しのぶ:著、河原和音:イラスト/集英社オレンジ文庫)

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 今年もはじまった高校野球。甲子園をめざして各地で強豪校が火花を散らす、いわずとしれた夏の風物詩だ。7月16日には『夏のアメトーーーーク 高校野球大大大大好き芸人栄冠は君に輝くSP !!』(テレビ朝日系)が放送され、球児たちだけでなく見守るファンの心も熱く盛り上がりはじめている。そんな人におすすめなのが小説『雲は湧き、光あふれて』(須賀しのぶ:著、河原和音:イラスト/集英社オレンジ文庫)。甲子園をめざす球児を中心に描かれる本作は、第1巻発売後に大反響を呼び、このたび第2巻『エースナンバー 雲は湧き、光あふれて』が発売された。

 野球自体に興味はないが、高校野球はついつい見てしまう。あるいは野球がテーマの小説やマンガはなぜだか読んでしまう。そんな人も少なくないだろう。成熟したプロ野球と違って、心も身体も成長過程の少年たちがグラウンドを駆ける野球モノには、運動部ではなかったとしても、大人たちの心を惹きつける何かがあるのだ。

 特に『雲は湧き、光あふれて』が魅力的なのは、球児だけに着目していないところ。第1巻の1編目こそ「腰を故障した四番と、彼専用の代走者として指名された万年補欠」の2人がそれぞれの悔しさや葛藤をぶつけあう青春短編となっているが、2編目の主人公は新人新聞記者の女性・泉。「強豪校だけじゃない、結果的に日陰の存在になってもそれぞれの野球人生を生き抜いている少年たちにスポットをあてたい」と想いを抱きつつ、仕事としてはそうはいかない現実にぶつかっている。その日陰の存在のひとりである月谷という少年の熱に揺さぶられ、彼女は彼女の道のりで甲子園を目指し続けるのだ。

 この月谷という少年がまた、青春モノ好きにはたまらないエッセンスをたっぷりもっている。ちょっと斜に構えたところのある、クールな少年。だが、本当は他校の幼なじみが、強豪選手として注目されていることに腹の底で悔しさをたぎらせている。もちろん不仲なわけではない。仲がいいからこそ、「どんなに力の差があっても負けたくない」という想いがより強く芽生えるのだ。幼なじみよりも自分に注目してくれた泉の存在に浮き立っているのもかわいらしい。第2巻では、そんな月谷が所属する三ツ木高校を中心に物語が展開する。

 1編目の主人公は、これまた球児ではなく、野球経験はほとんどないのに監督に指名されてしまった若手教師・若杉だ。投手の月谷以外は弱小、というチームをどう引っ張っていくか悩んだ彼は、前監督が追い出してしまったもうひとりのエース・笛吹を呼び戻すかどうかの選択を迫られる。なぜなら、努力だけは人一倍なのに野球センスがとことんない主将・中村を、笛吹はこれっぽっちも認めていないからだ。笛吹にとっては「先生の言うことを聞くいい子ちゃんばかり贔屓しやがって!」と理不尽このうえない現実。だがしかし、若杉の目を通すことによって「どれだけ壁にぶつかろうとも、努力し続けることのできる才能は生きていくうえでかけがえのないものだ」「そんな主将こそチームにとって必要なのだ」ということがわかる。1話目は若杉、2話目は再登場の泉、3話目には笛吹。渦中にいる大人と子供、それを外側から見守る存在。それぞれの視点で展開されていくことによって、物語はいっそうの深みをもつのだ。

 本作の表紙画を担当しているのは、野球×ブラスバンドの青春マンガ『青空エール』(集英社)が実写化されたばかりの河原和音。表紙から、文章の行間から、熱のこもった夏の風をぜひ感じてみてほしい。

文=立花もも