8月6日に広島、8月9日に長崎が、被爆から71年となる「原爆の日」を迎えます。俳句の世界では、このふたつの日はほかに「広島忌」「長崎忌」「浦上忌」「平和祭」「爆心地」などの季語として、たくさんの人に追悼を込めて詠まれてきました。改めて平和の意味が問われるこの夏に、その作品の一部を思い出してみたいと思います。

長崎平和公園の平和祈念像


弯曲し火傷し爆心地のマラソン

俳句では季語としては、8月6日の「広島忌」は夏ですが、間に立秋をはさみますので、8月9日の「長崎忌」は秋となります。歳時記によっては、「原爆忌」としてまとめて、夏または秋のいずれかになっている場合もあります。いずれにしても、8月の灼熱の地獄絵の光景は、終戦直後から現在まで、17字の世界でさまざまに描かれてきました。

弯曲し火傷し爆心地のマラソン 金子兜太     ※1

金子兜太(1919〜)氏は、かつて長崎の爆心地の近くに住んでいました。一帯を歩き回り、次々に脳裏に現れた映像イメージをまとめながら字引を引き、この有名な句を完成させたそうです。

原爆ドームと元安川

原爆ドームと元安川


子を抱いて川に泳ぐや原爆忌

子を抱いて川に泳ぐや原爆忌 林徹       ※1

作者は広島在住だったそうですが、説明が無くとも、平和や不戦への想いが力強く想起される句ですね。この普遍性が俳句の素晴らしさなのでしょう。そんなふうにイメージ訴求に満ちた句を、いくつかご紹介します。

ひろしま忌空を残して人かはる 小原啄葉     ※1
電工のいちにち高し原爆忌 秋元不死男       ※2
手がありて鉄棒つかむ原爆忌 奥坂まや      ※2
原爆忌乾けば棘をもつタオル 横山房子       ※2
首上げて水光天に長崎忌 五島高資        ※2
ぴかどんを辞書に遺せし原爆忌 神田長春     ※2
立葵朱に咲き上る広島忌 金箱戈止夫       ※2
大空をつなぎ蝉鳴く原爆忌 大岳水一路      ※2

浦上天主堂遺壁

浦上天主堂遺壁


広島忌平和の鐘を撞く少女

俳句だけではありません。短歌の作品もご紹介します。

原爆とふ死の灰とふ嘆くべき詞消えざらんわが国語辞典に 佐佐木信綱    ※3
白い虚空とどまり白き原子雲そのまぼろしにつづく死の町 近藤芳美      ※3
幾千の人のすみとほる聖歌のこゑ被爆の壁を祭壇として 木俣 修      ※3

木俣氏の歌には、「長崎浦上天主堂の原爆記念日の夜の弥撤を詠む。」と添えられています。

今年は5月に、オバマ大統領が現職のアメリカ大統領として、初めて被爆地・広島を訪問。広島市の平和記念公園で原爆死没者慰霊碑に献花し、広島と長崎を含む第二次世界大戦のすべての犠牲者らに、哀悼の意を示すスピーチを行いました。そしてオバマ大統領自らが折ったという折り鶴は、寄贈された広島平和記念資料館で、9日から8月末まで公開されます。
改めて、世界が平和に向かうことを願って止みません。

広島忌平和の鐘を撞く少女 吉田未灰      ※4
折鶴にいのち吹き込む原爆忌 平岡しづこ     ※4

<引用と参考文献>
※1 宇多 喜代子 (編集), 中原 道夫 (編集), 片山 由美子 (編集)『読んでわかる俳句 日本の歳時記 秋』小学館 (2014)
※2 角川学芸出版 (編集)『角川俳句大歳時記「秋」』角川書店 (2006)
※3 飯塚書店編集部 (著)『短歌表現辞典 生活・文化編』飯塚書店 (1998)
※4 廣瀬 直人 (監修), 松田 ひろむ (編集), 有馬 朗人『ザ・俳句十万人歳時記 夏 』第三書館 (2008)

広島の原爆ドーム

広島の原爆ドーム