『怪談のテープ起こし』(三津田信三/集英社)

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 ホラー作家として高い人気を誇る三津田信三の最新作『怪談のテープ起こし』(集英社)が発売された。収録された6つのホラー短編は、いずれもホラーファンの心を満足させてくれる逸品ぞろい。サイコあり、心霊ありとバラエティに富んだ作風も魅力だ。さまざまな仕掛けがなされた『怪談のテープ起こし』の世界をもっと楽しむために、3つのポイント+αを挙げてみた。ホラーはちょっと苦手という人も、怖い本が読んでみたいという人も、以下を参考にしながら実話系ホラーならではの“恐怖の快感”を味わってみてほしい。

【ポイント1】 ドキュメントとして楽しむ!

 この本に収められた6つの短編は、どれも作家・三津田信三が取材したり、自分で体験したりした話をもとに執筆されている。
 たとえば1話目の「死人のテープ起こし」は、著者がサラリーマンをしていた時代に体験したという不気味な話。4話目の「屍と寝るな」は中学時代の同級生に、5話目の「黄雨女」は取材で知り合った女性占い師に、それぞれ聞かせてもらった実話だという。つまり一般的なホラー小説とは違って、完全なフィクションではないということだ。
 もちろん、本文にそう書かれているというだけで、実際のところどうなのかは分からない。すべてがよくできたフェイクという可能性もある。が、作中で書かれている三津田氏の過去は、公開されているプロフィールとかなりの部分で一致する。編集者時代に三津田氏が編集したとされる書籍も、実在するものだ。
 とすると、これらの恐怖体験も実際にあったこと、なのでは……?
 信じようと信じまいとあなた次第。ただドキュメントとして味わった方が怖さが倍増するので、ほぼ実話と受けいれながら読むことをおすすめする(逆に怖いのがイヤな人は、あくまでフィクションと信じ込みましょう)。

【ポイント2】 不条理な恐怖を味わう!

 オチのない話、といえば一般には否定的なニュアンスがあるが、ホラーや怪談の世界ではほめ言葉。物語が終わっても割り切れないものが残る……そんな不条理でオチのない作品の方が、ホラーとしては怖い場合が多いのだ。
 本書の収録作も、不条理で割り切れない展開にゾクゾクさせられるものばかり。たとえば3話目の「集まった四人」。ハイキングに参加したメンバーの様子がどんどんおかしくなってゆくという山岳ホラーだが、妙な態度になった男女がとつぜん丸い石に執着しだすという展開が怖い! なぜ石? その石は何? 作中ではまったく説明されていないのだが、だからこそ想像力を刺激してくる怖さがある。
 落ち度のない人物が、ふいに怪異に魅入られてしまう6話目「すれちがもの」のラストも怖ろしい。この世のルールを超えたところで、超自然の存在はわたしたちを待ち受けている。
 スパッと割り切れる話がもてはやされる現代だからこそ、不条理感覚がかもしだす底知れぬ恐怖をぜひ堪能してほしい。

【ポイント3】 ミステリーとして読み解く!

 上で書いたことと矛盾するようだが、ある種のミステリーとしても読み解けるのが三津田信三のホラー作品。まったく脈絡なく怪奇現象が起こっているように見えて、そこにはかすかなルールが感じられたりもする。
「集まった四人」「屍と寝るな」のラストでは作中に書かれたヒントを手がかりに、作者は怪奇現象にある解釈を加えているが、こういう読み解き方は他の作品でもできるはず。怖ろしい物語のあちこちに隠された伏線や手がかりを、目を見開いて拾い集めてほしい。
 ホラーとミステリーで2度美味しい。本書はそんなぜいたくな作品でもある。

【ポイント+α】 明るいうちに読む!

 本書には6つの短編をつなぐ形で、「序章」「終章」などのパートが収録されている。そこに書かれているのは衝撃的な内容だ。というのもこの単行本を編集していた集英社のスタッフに、祟りがあったと書かれているからだ。
 本書のもとになったのは、三津田氏が集めてきた膨大な怪談取材テープ。それを聴き続けた女性編集者T氏は、ついに心霊現象に悩まされるようになったという。
 ということは、もしかしてこの本を読んでいる我々もヤバいのでは……? 活字化された祟りが、読者のもとまで近づいてくるなんてことは……?
 T氏のような目に遭わないために、くれぐれも明るいうちに読み進めるようにしてほしい。もし何かあやしいことが起こったら、その日は読むのをやめること。
フィクションと実話の線引きが曖昧なところに、危険な面白さのある本作。だからこそ、読者の身に何が起こっても不思議ではないのだ……。

文=朝宮運河