名古屋市中心部にあるマンションは補修のため、すべての部屋の壁材や床材が取り外されていた。むき出しになったコンクリートの壁には大きな穴が開き、のぞくと隣の部屋が見えた/2014年6月(撮影/松浦新)

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 横浜市都筑区の「傾斜マンション」は、全棟建て替えの方向という。だが、建て替えを求める住民と補修を主張する業者の対立が長びく事例もある。

 名古屋市中心部に、壁面をカバーで覆われ、誰も住まないまま10年が過ぎたマンションがある。1997年に大手ディベロッパーの住友不動産が分譲した14階建て25戸の物件だ。

 入居直後から雨漏りなどが相次いだ。2002年には外壁のタイルがはがれていたり、窓枠のまわりに亀裂があったりすることもわかった。

 04年にタイルをはがして補修工事を始めると、むき出しになった壁や柱に多くの施工不良が見つかる。コンクリートが十分に充填されず、空洞や、砂利がボロボロと崩れる「ジャンカ」と呼ばれる施工不良が、多数発見されたのだ。

 タバコの吸い殻やコーヒー缶が出てきた空洞もあったという。抜本的な調査を要求する住民は、05年暮れには住友不動産が用意した仮住まいに移り住み、調査が始まった。

●鉄筋切断で耐震性低下

 筆者も、壁や床板がはがされコンクリートがむき出しの室内に入った。ジャンカを取り除いたあとの空洞が、各階の壁や柱、梁にあった。根元までコンクリートが入っていない柱や、鉄筋のうち、縦に入っている「主筋」を束ねる「帯筋」が足元に集中している柱も多数あった。

 日本コンクリート技術(東京都墨田区)の篠田佳男社長は、こう指摘する。

「鉄筋は、帯筋となる鉄筋を柱の下部に束ねて置き、主筋に沿って引き上げて固定していく。設計通りの位置に帯筋を留めなければ、満足できる強度が発揮されないが、(このケースでは)適切に配置されていない」

 管理組合はあくまで建て替えを求めたが、住友不動産側は補修を前提に調査を続けた。補修方法は、建物の調査や耐震診断などを手がける建築研究振興協会(建振協、東京都港区)に評価を委託し、09年に補修方法は妥当だとする報告書が出た。

 それでも建て替えを求める管理組合側に、住友不動産側は補修工事を認めるよう名古屋簡易裁判所に調停を申請し、13年暮れに補修で調停が成立する。

 調停にもとづいて補修工事が進められてきたが、今年5月、マンション地下の梁に、コンクリートが固まった後に穴が開けられ、下水道管などが通っていることに、住民が気づいた。

 管理組合が確かめると、コンクリートで固める前に開けた穴の位置が低く、下水道管の流れが悪いことなどから、新たな穴を開けたという。問題は、その時に鉄筋も切ったことだ。特に、主筋が22本切られていることが住民の怒りに油を注いだ。

「主筋を切れば耐震強度が下がる。穴を開けた時に主筋を切ったことに気づかないはずがない。少なくとも現場は知っていながら入居させたことになる。これは調停の範囲外だ」(ある住民)

●手抜き工事起きやすく

 住友不動産側は、改めて鉄筋を溶接でつなぐなどの補修で強度を確保すると主張し、建振協もこれを認めたという。建振協は「依頼主以外には説明しない契約になっている」と取材を拒み、住友不動産側は新たに見つかった施工不良も調停の範囲内として、補修を進める姿勢だ。

 マンションの施工不良に詳しい、さくら事務所のコンサルタント、土屋輝之さんはこう話す。

「マンションの施工不良は表に出にくいが、珍しくはない。ディベロッパーの過当競争で工期が短くなり、熟練の現場作業員も少なくなって、手抜き工事が起きやすくなった」

 住友不動産は「調停にもとづいて専門家と公的機関からのお墨付きを得て補修を進めている。風評被害による所有者の損害につながるため取材は受けられない」などと説明している。(朝日新聞経済部・松浦新)

AERA 2016年8月8日号