この連載は誌面ではなくインターネット上で公開されている。どこかへ行く電車で暇つぶしに読まれ、目的地に着く頃には忘れられた文章は頭の中から消えても半永久的にどこぞの電脳空間に残るらしい。駅のゴミ箱に葬られたら最後、消えてしまう記事とは違って、その点が一番、私にとっては苦しい。逃げ出してしまいたい。

初めての電脳、ポケベル

思えば中学生になった時、同級生のあいだで最初の電脳空間が生まれた。ポケットベルだ。4104123322=ダイスキ、だ。若い御方々には意味がわからないだろう。ポケベルは流行ったが持っていたのは一部の目立つ女子と、先輩と付き合ってるヤンキー女子だった。授業の合間、職員室の前の公衆電話にて彼女らが彼氏にベルを打つたびになぜかギャラリーとして付き添ったものだ。

いまその思い出がこの文章によってやおら引き出され、忘れてた記憶に不意に揺さぶられてしまった。ポケベルが我々地味女子の地面に降りてくる前に技術革新は猛スピードで進み、時代は直ぐにピッチ主流となった。ピッチって若い御方々はなんのことやらだと思うが、もちろんPHSだ。ここまで言ってわからない人はお母さんに聞いてください。

ポケベルが流行ったのが中学1年の時ならそのピッチが急速に広まったのが中3くらいの頃だ。農耕時代から工場制手工業が広まるまでに何千年の月日がかかったのに対してたったの2年でこの進化。

時代の流れはそれとして、私がピッチなるものを携帯するようになったのは高校生頃だったと思う。アルバイト代で月々の支払いをする約束で、母親を拝み倒して契約をしてもらった。

新しもの好きの友人Aさん

新しもの好きな人っていますね。私の周りにももちろんいます。数少ない中学生時代からの友人、Aさんもそういう人で、当時ヤンキーでもなく先輩彼氏がいるでもない割にイチ早くPHSを手に入れ、その後もPHSから携帯への移行(これは高校生頃)、マックのPC(大学生頃)、ミクシィ、フェイスブック、iPhone、ツイッター、ライン、これら文明の利器を取り入れるタイミングがとにかく早かった。

ついでに言うと、当時まだ大阪を拠点としていた(お笑い超メインストリームの吉本ではない、)松竹芸人のよゐこをラジオでいち早く掘り出し、学校では誰も知らなかった「DA.YO.NE」を教室ではりきって歌っていたのもAさんだ。全国何位かは知らないが私の半径20メートルの中では常に流行を一番先取りしていた。Aさんはちなみに友達が多い。旅行先でもどんどん友達を増やしていく。コミュニケーションツールを自分らしく駆使している現代人である。

私はというと一連のそれらに対して、恐ろしいほどに慎重かつ怠慢だ。今も怠慢しているので、ラインも仕事場の人に促され登録はしたが新しく会った人にLINEのアドレスを紹介する方法を知らない。フェイスブックは一度も触ったことがないから、いいね!のシステムも実はなんかよくわかっていない。フェイスブック上で行われているらしい幸せマウンティングの話なんかは、距離でいうと、自分の子供がハマっているらしいカードゲームのデッキの話くらい遠い。多分フェイスブック・マウンティングの話を聞いてる時の自分と、子供のカードゲームの話を聞いてる時の自分は同じ顔をしてると思う。

ほんとうの「リア充」とは何なのか

唯一、私が参加しているSNSといえばツイッターだ。何か美味しいものを食べた時、笑える事件があった時、何かひとこと意見を言いたい時、人に勧めたいものを発見した時、人は瞬時にそれをつぶやく。それがツイッター。

ちなみに私のツイッターはとても閑散としている。人気がないのだ。もちろん漫画家としての知名度や部数が全然いってない、という悲しい事実がまず理由としてあるんですけど、そういうことじゃないのがツイッターであり、別に知名度がもともと無かろうが面白ければ何万人とフォロワーが付くのがツイッターの世界の掟なのだ。知ってる。面白くないのだ、自分で読んでても全然、面白くない。

数日前、めちゃくちゃでかくて甘いマンゴーを貰って、みんなで食べた。普段なかなか予約が取れないらしいレストランで編集の人に超美味しいものをご馳走になった。私のカリスマ雁須磨子先生からケータイの裏に絵つきのサインをもらった。じつはこれを書いてるのは四国に行った帰りの飛行機だ。

それなりに生活には驚きや生彩がある。が、どれも撮れてない。どれも呟けずじまい。雁須磨子先生のサインに至ってはケータイの裏面を撮りようがない。

思うに、他人を楽しませる前にまず興奮が先立ち、自分が楽しむことにしか頭がいっていない。携帯を手に取る前に早く、1秒でも早く自分がそれを味わいたい。そしてひとしきり楽しんだために出来事すべてが事後感に溢れてしまう。もはや何をか呟かん。

これをリアルが充実、と言わず何と言おうか。

ツイッターは閑散としているし携帯が震えれば大体はニュースメール、当面バーベキューの予定もなく、週末ともなれば女性編集者を打ち合わせまぎれに飲みに誘う始末ではあるけども、それなりに私はリア充なのです。

(鳥飼茜)